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スペインGPもこれで見納めか……。
努力の天才・シューマッハーの記憶。
posted2019/05/19 17:30
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
5月14日、スペインGPが閉幕した直後のことだ。
2020年からのオランダGPの復活が発表された。35年ぶりの復活自体は以前から噂されてはいたが、このタイミングでの発表は、今年限りで契約が切れるスペインGPへの最大限の敬意を表したものだと考えられる。
'86年の再開から33年間連続で開催されたスペインGP。そのほとんどのホスト役を務めたのが、今年の開催地でもある、バルセロナ近郊のカタロニア・サーキットだった。
低速から高速までさまざまなタイプのコーナーが点在し、かつストレートも長いことから、マシンの総合力が試されるコースとして、グランプリだけでなくテスト地として多くのドライバーがここで腕を磨いた。
それゆえ、「ここで速いマシンはどこへ行っても速く、ここで速い者はだれよりも速い」とも言われている。
5速だけで40周以上走った伝説のレース。
そんなカタロニア・サーキットで史上最多となる通算6勝を刻んだのが、ミハエル・シューマッハーだ。グランドスタンドの裏の壁には、シューマッハーの栄光を称えて壁画がペイントされている。だが、最多6勝目を挙げたレース以外にも、彼がこのサーキットで披露した伝説的な走りがある。それが'94年のスペインGPだ。
ベネトンのマシンを駆ってポールポジションから好スタートを切ったシューマッハーは、すぐに独走態勢を築く。ここまでシューマッハーは開幕4連勝を飾っており、多くの者が「このレースにも勝って、'92年にナイジェル・マンセル(ウイリアムズ)が作った開幕5連勝の記録に並ぶのではないか」と楽勝を想像した。
ところが、1回目のピットストップで試練が襲う。ギアボックスが5速に入ったまま、動かなくなってしまったのだ。さまざまなタイプのコーナーがあるこのコースでは、シフトチェンジは不可欠。それができなくなったシューマッハーはトップの座を明け渡してしまう。
しかしシューマッハーはここから驚くべき走りを見せた。トップとコンマ数秒しか違わないペースで走り続け、表彰台圏内を維持。さらに、通常ピットインすれば発進時に1速を使わなければならないにもかかわらず、5速だけでピットストップとピットアウトをこなし、最終的に2位でチェッカーフラッグを受けたのだ。