ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
井上尚弥が戦う「過去最強の相手」。
70秒KOから一転、技術戦の可能性?
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byREUTERS/AFLO
posted2019/05/17 17:00
「事実上の決勝」と騒がれる一戦を前に、会見で睨みを利かせる両者。井上尚弥(左)同様、エマヌエル・ロドリゲスもいまだ無敗。
井上は1カ月スパーリングなし。
特に井上の場合は前回が70秒だから、それ以上のインパクトとなれば、タイムでいえば1分以内。そんなことは狙ってできるものではないが、周りは「ひょっとすると」と期待してしまうものである。
そうした状況で、井上は昨年から年をまたいで自らのボクシングを見失った。相手を圧倒しようと力任せのスパーリングが多くなり、「頭では分かっていても、やっぱりどこかで意識する」(井上)ために、自らをコントロールできなくなった。
井上はこの窮地を1カ月にわたってスパーリングをしないことで乗り越え、完全に調子を取り戻したが、試合への影響はゼロとは言い切れないのではないだろうか。
無敗ロドリゲスとの対戦は事実上の決勝?
加えて対戦相手のロドリゲスである。井上は「過去最強の相手。簡単な試合にはならない」、父の真吾トレーナーは「五分五分」とIBF王者を評した。気持ちを引き締める意味が込められているにしても、父子ともにロドリゲスを高く評価しているのは間違いない。
前回の試合で判定勝ちを収めたロドリゲスは、もともとスピードがあり、鋭いジャブやカウンターは精度が高く、近距離でも腕をたたんでシャープなアッパーやフックを打ち込む実力者である。
アマチュア時代にユース・オリンピックで金メダルを獲得し、プロ戦績は19戦全勝12KO。井上(17戦全勝15KO)と同じくいまだ無敗だ。
井上が昨年対戦したマクドネルやパヤノは実力者ではあったが、やや峠を過ぎた印象はあった。それに対しロドリゲスは井上の1歳上で、若さと勢いも兼ね備えている。井上がロドリゲスを過去最強とみなすのは「同世代」であることも大きな理由だ。WBSSバンタム級において井上vs.ロドリゲスが事実上の決勝、と報じる海外メディアさえある。