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「スノボで得たもの」を失う危険を
冒しても、平野歩夢が挑戦する理由。

posted2019/05/19 12:00

 
「スノボで得たもの」を失う危険を冒しても、平野歩夢が挑戦する理由。<Number Web> photograph by MATSUO.K/AFLO SPORT

大会後の取材で現在の完成度について「40%」と答えた平野。五輪に向けて伸びしろはまだまだ残されている。

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矢内由美子

矢内由美子Yumiko Yanai

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MATSUO.K/AFLO SPORT

 トップアスリートの挑戦はいつだって、未開のエリアへの侵入やリスクとの格闘、そして攻略の軌跡を描くことになるものだ。

 東京五輪に向かう強化選手選考会を兼ねたスケートボード日本選手権が、5月10日から12日まで新潟・村上市スケートパークで開催され、スノーボード男子ハーフパイプの冬季五輪2大会連続銀メダリストである平野が、男子パークで初優勝を飾った。

 21人が出場した準決勝を首位で通過すると、8人で競った決勝では65.70点の最高得点で優勝。この成績で、日本ローラースポーツ連盟が決める強化選手に選出され、“二刀流”実現の第一関門と言えるオリンピック代表選考レースのレールに乗った。

「自分の納得する演技はできなかったですが、結果的には優勝することができて良かったです。東京五輪に向けてのチャレンジを、この大会でさらに一歩進めることができた実感はあります」

 競技中に見せていた真剣な表情を緩めた平野は、静かな口調の中に安堵感をにじませながら、覚悟を強めていた。五感を極限まで研ぎ澄ませてパークに挑む日がまた続いていく。強い意志をはらむ視線のその向こうには、硬いコンクリートの怪物が待っている。

「2つの競技はまったく別もの」

 昨年11月に東京五輪挑戦を表明し、スケートボードの練習に打ち込む毎日を送るようになった後は、ケガとの戦いが続いた。

 1月に右手甲を骨折。満足な練習を積めないままに3月の日本オープンに出場して3位に滑り込み、日本選手権の出場権を獲得したが、5月上旬に今度は左手首を捻挫した。今大会には、左手にテーピングを巻いて臨んでいた。

 平野は、冬季五輪2大会銀メダルやXゲームズ優勝など、スノーボードの頂点を極める熟練者である。スケートボードに挑戦する難しさについては質問があるたびに「2つの競技はまったく別もの。体の動き方がまったく違う」と言い、丁寧に説明する。

「足が固定されていて、体を投げて使うのがスノーボードの世界。スケートボードは板が足に固定されていないから、どれだけ自分で板を足にくっつけているか。そうでないと、着地も決まりません。足首や、足の持ち上げ方が重要になってきます。(転倒時に)体から落ちるスノーボードと、コンクリートに対して足から衝撃を吸収しなければならないスケートボードはやり方が別です。

 乗っているものは似ているような雰囲気かもしれないけれど、実際にやってみると、こっちがうまいからこっちもうまいなんていうことは現実的にないと思います」

【次ページ】 最後まで滑っていた公式練習。

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