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「スノボで得たもの」を失う危険を
冒しても、平野歩夢が挑戦する理由。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byMATSUO.K/AFLO SPORT
posted2019/05/19 12:00
大会後の取材で現在の完成度について「40%」と答えた平野。五輪に向けて伸びしろはまだまだ残されている。
最後まで滑っていた公式練習。
今大会に臨むまでの準備期間については、「ケガのリスクをすごく気にしながら、足りないものを強化してきました」と語った。
危険を最小限に抑えるため、細心の注意を払ってきたのは、今大会で上位に入って強化指定選手に選ばれない限り、東京五輪への道が実質閉ざされることになるからだ。
準決勝を首位で通過したときでもまだ表情を緩めず、「左手もグラブ(板をつかむ)するのが精一杯ですし、細かいケガが日に日に積み重なる、そういった練習が多かったのでこれ以上ケガがないように、あした(の決勝)を迎えたい」と話していた。
慎重に慎重を重ねてのトレーニングではあったが、その中でも意識して取り組んできたのは、持ち前のエアーの高さに磨きをかけることや、コースの縁(リップ)で車輪の軸(トラック)を滑らせる(グラインド)技の精度を上げること。それを、「少しずつ、慎重に、できるだけ長い時間をかけて練習していました」(平野)
その言葉通りの様子が大会中にも見られた。公式練習があった10日、準決勝が行われた11日、決勝があった12日と、すべてのトレーニングセッションで、一番最後まで滑っていたのが平野だった。
テーマに掲げる「挑戦」。
滑る前の準備も入念だ。テーピングを確認し、膝当てをつけ、スマホの画面に何度も指を滑らせてから、ゆっくりとイヤホンを耳に装着する。スノーボードで五輪に出ているときは、恐怖心を少しでも和らげるために大音量で音楽を聴いていると言っていたが、おそらくそれはスケートボードでも一緒なのだろう。
そうでもしなければ踏み出せない。それほど高難度なトライなのである。
だから平野は競技に向かう自身のスタンスについてこんなふうにも言う。
「スケートボードをやっている以上は、ひとつの挑戦という気持ちです。挑戦なので、そこには失敗がある。そのうえで、挑戦が良い形で実ればと思っている。それを自分の中での大きなテーマにしています」