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「スノボで得たもの」を失う危険を
冒しても、平野歩夢が挑戦する理由。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byMATSUO.K/AFLO SPORT
posted2019/05/19 12:00
大会後の取材で現在の完成度について「40%」と答えた平野。五輪に向けて伸びしろはまだまだ残されている。
最高点は1本目、高難度のトリックも。
こうして始まった上位8人による決勝戦。40秒の演技を3本行なってベストスコアを争う競技方式で、平野が最高点を出したのは1本目だった。
スノーボードの操作と同様に板に体重を乗せる技術はピカイチ。そこから生まれるスピード感あふれる滑りと高さのあるジャンプで、足で板を1回転させて手でつかむ「キックフリップインディー」やジャンプして背中側から回転する「バックサイド540」(横1回転半)を決めて首位に立つと、昨夏のアジア大会で金メダルを獲得した同学年の笹岡建介や世界選手権代表の13歳・永原悠路の追い上げを許さず、最後までトップを守った。
成功しなかったが、2本目と3本目では1本目より難度の高いトリックにも挑み、「左手はアドレナリンが出ていたので痛みを感じなかった」と笑顔を浮かべた。
高さとスピードは「まだ足りない」。
強化指定選手になったことで、いよいよ本格的に東京五輪に向かう代表権獲得レースをスタートさせた平野だが、世界トップとの距離はまだまだある。
日本ローラースポーツ連盟の西川隆ヘッドコーチは平野について「まとまってきているなと思うのと、流し系のトリックが思った以上に滑っていて非常に良くなっていた。優勝だな、と感じた」と短期間での急成長を評価しつつも、スケートボードの種目の中で日本の男子パーク勢のレベルは世界との差が大きいことを認める。
「今は準決勝に上がれるかなというところ。それを決勝に上がれるところまで上げていかないといけない。現段階では(東京五輪で)目指すのは入賞、良ければメダルというレベルだと思う。足りないのは高さとスピード。平野でもまだ足りない」
ただ、平野の場合は本格的な練習スタートが昨年11月からということで、圧倒的に練習量が少ない。だからこそ伸びしろがある。
ローラースポーツ連盟の別のコーチングスタッフは、「彼の場合は構成のバリエーションとオリジナリティーを加えていく必要がある。エアー以外のことを彼もやりたいと思っているはず。それはいろいろなコースで練習していくことで身につくし、1年あれば間に合う」と語る。