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「スノボで得たもの」を失う危険を
冒しても、平野歩夢が挑戦する理由。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byMATSUO.K/AFLO SPORT
posted2019/05/19 12:00
大会後の取材で現在の完成度について「40%」と答えた平野。五輪に向けて伸びしろはまだまだ残されている。
今後は海外の大会に出場、課題も明確。
強化指定選手たちは今後、6月に米カリフォルニア州ロングビーチで行なわれる「デュー・ツアー」などの大会に出場し、五輪出場のために必要なポイントを稼いでいくことになる。平野は、「海外の選手を目の前にできるだけでも収穫がある。会場で見るのと動画で見るのとでは、得られるものが違う」と期待感を高めている。
20歳という年齢は今大会の出場選手32人の中で最も上だった。しかし、「スノーボードと違って、まだスケートボードの大会自体に慣れていないので」と語る平野には、まだ表に出ていないポテンシャルがあるはずだ。
「細かな高さや跳びばかりではだめというのがスケートボードのポイントの基準。それに、僕は滑っている期間が他の選手に比べて少ない。海外の選手たちと比べると、パークの中ではまだまだ経験が足りないので、いろいろなパークを滑り慣れていかないといけない」と課題が何であるかを自身も分かっている。
平野が険しい道を選んだ理由。
それにしても、東京五輪出場を目指す二刀流のチャレンジは華々しいだけのものではない。
今大会中、平野がある「不安」について吐露する場面があった。それは、スノーボードの世界でつかんできたものを、手放してしまうかもしれないという恐れだ。
「僕にとってのスケートボードは、競技のチャレンジだけではなく、精神的な部分でもチャレンジです。スノーボードで得ているものを失うかもしれない中でスケートボードをやっているのは、すごくリスクがあることだと思います」
しかし、失うものがあるかもしれないことを承知で、平野はこの道を選んだ。なぜだろうか。その答えはシンプルだ。
「今現在、両立している人がいないという、あえて難しい道で自分は戦っているという気持ちがある。正しい答えが待っているわけでもないと思うし、どっちも中途半端になる危険性もある。
でも、何かを失ってでも得ようとする気持ちによって、精神的強さも生まれるし、結果よりももっと先の自分のためにつながることだってあります。自分にしか得られないものを、この横乗りを通じて、これからの子たちに伝わることが生まれれば良いと思います」
誰も足を踏み入れたことのない険しいバックカントリーに、たった1人で挑むようなものかもしれない。インスペクション(下見)は不可能。ナビゲーションも当然ない。頼れるのは自分の五感と、おのれを信じる気持ち。
日本人5人目の夏冬五輪出場という到達点よりも大切にしているものが平野にはある。