フランス・フットボール通信BACK NUMBER
北アイルランドの古豪に世界が注目。
英国で唯一のEU加盟のクラブに!?
text by
アーメド・アルサラフAhmed al-Sarraf
photograph byKevin Morrison
posted2019/05/07 10:30
縦縞のユニホームを纏うデリー・シティFC。12試合を終えた時点(4月26日現在)で、アイルランドリーグ4位と好調をキープしている。
サラリーにも影響する金銭問題。
契約の延長については金銭的な問題もある。離脱後は英ポンドの大幅な下落が予想される。それがサッカーにも影響を与えることになりそうだ。現時点ではまだ不安の種に過ぎず、警鐘が鳴らされているわけではないが……。ボイル市長は言う。
「すべてはその日がきたときのポンドの価値による。クラブは深刻な打撃を受けるかもしれない。特に選手のサラリーは、ポンドの下落とともに大きく下がる可能性がある。それを考えると不安を感じざるを得ない」
以前は彼自身が率先してその暗雲を追いかけていた。
「だが、今は心配していない。問題がどうであれ、われわれがいつも対処していたようにそれと向き合う。そして胸を張って問題を克服する。われわれはデリー・シティであるのだから」
しかし現実には、誰もこの問題を掘り下げて解決することができない。
「困難な状況に陥るのは予想できても、誰も何が問題なのかを具体的にわかっていないからだ」とオドハーティは言う。
唯一の拠りどころは?
ではいったい問題は何であるのか。国境でのパスポートコントロール、行政上の様々な問題、スタジアムへの移動などなど……。それらすべてをつぶさに検討していくと、厳しい状況が今まさに始まろうとしているのがわかる。
プライド・オブ・ザ・ノースサイド・サポータークラブの会長を務めるミッキー・ケリガンは、そうした苦難の時間を過ごすことを恐れてはいない。'85年からクラブを追いかけている彼は、当時のファンがクラブとともに生きることに誇りを見出したのを、よく知っているからだった。
「あのころから国境のコントロールは厳しく、軍や警察が生真面目に細かくチェックするから常に長い渋滞ができていた。私たちはといえば黙って肩をすくめ、国境を超えるのをただただ待つばかりだった」
その粘り強さこそが、サポーターとクラブを強い絆で結びつける大きな武器である。EU離脱後の新たな状況のもとでも、それが保障となり拠りどころとなる。監督のデクラン・デヴィンが語るように、彼らの気質によるところなのだろう。
「私はデリーの出身で今もデリーに住んでいる。家族もみなデリーの人間だ。生まれた街のクラブの指揮をとるのは本当に大きな喜びで、これ以上の名誉は何もない。私はEU離脱に興味はないし、政治的な活動にもまったくかかわっていない。それらは私の生活とは何の関係もない。私はすべてのエネルギーをクラブと家族に注いでいる。そのふたつが他のすべてに優先する」