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北アイルランドの古豪に世界が注目。
英国で唯一のEU加盟のクラブに!?
posted2019/05/07 10:30
text by
アーメド・アルサラフAhmed al-Sarraf
photograph by
Kevin Morrison
デリー・シティFCをご存じだろうか。
北アイルランドのデリーに本拠を置きながら1985年にアイルランドリーグに加盟し、2度の優勝('88~'89、'96~'97シーズン)を果たした名門クラブである。FAIカップも5度制覇している。
ふたつのアイルランドの国境に位置するデリーには、英国のEU離脱問題が集約されている。とはいえそれは街の人々を不安に陥れてはいない。彼らはこの危機的状況を、別の観点から眺めているからである。
『フランス・フットボール』誌4月2日発売号では、アーメド・アルサラフ記者がEU離脱に揺れるデリー・シティFCの様子をレポートしている。
監修:田村修一
危険に満ちた街だったデリー。
6世紀に成立し、イングランドとスコットランドの征服から守るため1613~19年に街を城壁で囲んだデリーは、《城壁の街》として知られている。しかし北アイルランド紛争が華やかなりしころ――1968年から1998年までの30年間のデリーは、危険に満ちた街だった。銃声や爆弾の破裂音、閃光などが街のあちこちで炸裂し、ちょっとした日用品の買い物に出た隣人が、そのまま帰らぬ人となってしまう。そんな悲劇が街のあちこちで繰り返されていた。
北アイルランドの北西部に位置し、アイルランドとの国境にほど近いこの街は、イギリスのEU離脱が国民投票によって決まった2016年6月23日以来、話題の中心であり続けている。
というのもその決定は、北アイルランドに本拠を置きながらも30年以上にわたりアイルランドリーグに参加しているデリー・シティFCに深刻な影響をもたらすであろうからだ。ひとつのクラブが国境をまたいで異なる国のリーグに所属するのは、世界でも極めて稀なことであった。