月刊スポーツ新聞時評BACK NUMBER
佐々木朗希の投げる姿を見ましたか?
怪物感を煽る、UFOのような未知性。
text by
プチ鹿島Petit Kashima
photograph byKyodo News
posted2019/04/30 08:00
最速163キロ右腕・佐々木朗希投手の「令和初戦」は5月2日に決定。
実は、投げる姿をほとんどの人が見ていない。
当初は、高校3年生になったばかりの投手に「令和の怪物」と名付けるスポーツ紙の大仰芸を楽しむ気分だったが、連日のこの“目撃談”に私はたまらなくなってきた。
佐々木投手の報道になぜ必要以上にワクワクしてしまうのか。その意味がわかった一節を目にした。
4月8日のスポーツ報知のコラム「仙ペン」の冒頭である。
《今や日本一有名な高校球児かもしれない。なのに投げる姿を実際に見た人は決して多くない。》
あ! そういえば!
《「令和の怪物」こと佐々木朗希投手。ミステリアスさが待望感に輪をかける。》
そうだ、そうなのである!
スポーツ紙の見出しだけでなく、プロのスカウトをこれだけ絶賛させている佐々木朗希を、私たちの多くはまだ「見たことがない」のである。
163キロという情報は認識しているが、その姿は想像するしかない。だからこそ“目撃談”に胸をときめかす。かつてのネッシーや雪男に似たロマンを令和の時代に抱けるとは、まさに未知の怪物なのである!
つい「川口浩探検隊」のノリに。
必然的にスポーツ紙は佐々木を追うと次のような報じ方になる。
《昨年暮れ、本紙のアマチュア野球担当だったK記者が大船渡を直撃した。「謎の怪物をみちのくの港町に追う」的な記事だった。》(「仙ペン」4月8日)
スポーツ紙は佐々木に関しては通常モードでも「川口浩探検隊」のようなノリになってしまうのだ。
佐々木朗希投手が未知である理由は、公立高校に在学というのが大きい。今のところは県大会止まり。甲子園どころか東北大会にも出場したことがない。私立の強豪校に所属しているのならその「正体」はすっかり明かされているはずだが、佐々木はちょうどいい具合に「未知」なのだ。