月刊スポーツ新聞時評BACK NUMBER
佐々木朗希の投げる姿を見ましたか?
怪物感を煽る、UFOのような未知性。
posted2019/04/30 08:00
text by
プチ鹿島Petit Kashima
photograph by
Kyodo News
平成の変遷の1つとして、スポーツ新聞と「未知」案件がある。
たとえば東スポは平成当初からしばらくはUFOやネッシーや人面魚という「未知」を1面にしていたが、最近は「次の薬物事件に登場しそうな有名人は誰か」のような、スキャンダルに関しての「未知」にシフトしている。牧歌的な未知は需要がなくなり、よりシビアになっているのだ。
4月21日付の東スポ1面は『大物若手俳優 薬物吸引証言』だった。紙面に描かれている俳優らしき“影絵”の下には「映画ドラマの主役級 CMにも多数出演」という説明があった。
「未知」の意味合いが時代とともに変わってきているのがわかる。ただ、共通するのは「ネッシー」も「大物若手俳優」も“信じるか信じないかはあなた次第”ということ。読み手の受け身が問われるところは変わっていない。
では今の時代には昔懐かしい未知はもう存在しないのだろうか。
いや、あったのである。しかも「今、この時期だからこそ」の物件があった。それは、「令和の怪物」である。
新元号「令和」が発表されるやいなや、スポーツ紙には「令和の怪物」なる異名が飛び交った。
それは、岩手・大船渡高校の佐々木朗希投手(3年)のことだ。
「ギュルルルル」と完全に怪物扱い。
新元号発表直前の4月1日の日刊スポーツ1面は「佐々木156キロ 日米18球団仰天練習試合」と報じた。この時点ではまだ「大船渡の怪物」だったが、新元号が発表された翌日にスポーツ報知は「令和の怪物」と報道。
さらに6日後、佐々木が日本の高校生では前人未到の163キロ(!)を出した翌日は、「『令和の怪物』だ!!」(日刊スポーツ)、「令和の怪物へ」(サンケイスポーツ)など各紙も追随(4月7日)。
サンスポには各球団スカウトのコメントが掲載され、
「スカウト人生で一番」(巨人)
「こんなの見たことがない。大谷よりも衝撃的」(楽天)
「衝撃のひと言。アマチュアの段階で、こんな投手がいましたか?」(ソフトバンク)
というスカウトも読者も驚きの表現がずらりと並んだ。
日刊スポーツには、
「ギュルルルルという感じ」(対戦打者)
「怖かった」(受けた捕手)
という談話が。まさに怪物と遭遇してしまった少年という趣なのである!