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日本人F1ドライバーの誕生なるか。
執念の男・松下信治、4度目の挑戦。
text by
島下泰久Yasuhisa Shimashita
photograph byHonda
posted2019/04/05 15:00
バーレーンでの開幕戦はトラブルもあり、上位に食い込めなかった松下信治。スーパーライセンス獲得に向けた、「あきらめない男」の戦いに注目だ。
スポンサー活動にまで奔走。
スーパーフォーミュラで獲得できるスーパーライセンスポイントは前述のように多くはない。もちろん、数値上は2年連続タイトルを取るなどすれば可能性があるが、職人的なベテランひしめくスーパーフォーミュラはルーキーがいきなり勝てるほど甘いレースではない。何しろ、あの小林可夢偉選手ですら、未だ優勝できずにいるくらいなのだ。要するに、松下はこの時点で、実質的にF1へのルートから外されたわけである。
しかし松下はここで諦めなかった。ホンダに対して「ヨーロッパに戻りたい」と常にアピールし続け、更にF1ベルギーGPの現場に赴き、併催されていたF2のパドックを訪問。各チームの首脳陣と直談判して、更に独自でスポンサー活動も開始する。仮にホンダからの支援が得られなくても、自力でヨーロッパに戻りF1を目指そうと考えたのだ。
松下の熱意に動かされたホンダ。
この積極性に、当初はけんもほろろだったというホンダも徐々に考えを変えていく。この年、F2に送り込んだ2人が結果を出せずにいたこともあり、ホンダは'19年に向けて松下を再びF2に送り出す方向へと傾いていった。
条件として参戦費用のうち何割かを自らスポンサーを集めて負担することを課したが、古くからの支援者の尽力もあり、これをクリア。それに呼応してホンダも動いて昨年のチームランキング1位であるトップチーム、カーリンのシートを確保し、いよいよ'19年シーズンのF2復帰を叶えたのである。
ちなみにF2の参戦費用は年間2~3億円とも言われる。もちろん大金だが、一方でホンダのような大企業にとっては決して大きすぎる額というわけでもない。それでもあえてスポンサー集めを課したのは、ヨーロッパの自動車メーカーの育成ドライバーの一部を除く多くが、家族や企業から同じようにサポートを受けて参戦していることに鑑み、その意気込み、あるいは周囲を巻き込む能力まで量るためでもあったに違いない。