ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
松山英樹「1週間もある」の真意。
マスターズで好スタートするために。
posted2019/04/04 11:30
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
Yoichi Katsuragawa
金曜日の米国東部標準時17時――。
PGAツアーでプレーする選手たちにとっては、毎週この時刻が大切なリミットである。正確を期すと、彼らのマネージャーをはじめとした実務をこなすスタッフ陣はこれを決して忘れてはならない、と言った方がいいかもしれない。
翌週の大会に出場するための、エントリー締め切りの時刻なのである。
外国から申し込もうが、国内で時差がある米国のどこにいようが、この期限までに申し込みを終えなかった選手は欠場になる。逆に言えば、出場するためには申請は時刻ギリギリでも構わない。
例えば、木曜日に始まった試合に出場していてもで、金曜日のプレー中や、ラウンド後にエントリーすることも可能。多忙なスケジュールと身体の状態を見比べながら、細心の注意を払って次の試合への参加を見極める選手もいる。
予定していなかった連戦をほのめかす。
強い風が大地を抜けるテキサス州オースティン。3月末のWGCデルテクノロジーズマッチプレーは近年、マスターズの2週前に開催される試合として定着しつつある。
世界ランク上位者64人による世界選手権シリーズで、174万ドル超の優勝賞金や各ツアーの長期シードも魅力だが、目前に迫ったマスターズに向けた仕上がり具合を試す機会としても有益だ。松山英樹は6年連続の登場となるメジャー前最後の出場ゲームに、今年もこれを選んだ。
マッチプレー選手権は水曜日に開幕し、3日目までは1組4人が総当たりでぶつかるグループステージが行われる。ところが松山は、2日目までにマッチを1敗1分けで終え、週末の決勝トーナメント進出の可能性が潰えた。すると、意外な言葉を口にした。
「あしたがマスターズ前の最後のラウンドになる」と聞かれたときのこと。
「そうですね……いや、分かんないですよ。来週、出るかもしれないし」
予定していなかった翌週、つまりマスターズ前週の試合出場をほのめかしたのだった。現実的に99.9%は“ない話”だった。ただ、いつものジョークのつもりなら、ちょっとは笑ってくれてもよかった。
確かにエントリーの締め切りは翌金曜日の午後4時(テキサス州がある中部時間)だから、まだ出場は可能だ。松山は発言を撤回することなく「あした、頑張ります」と残して、翌日の最終マッチに備えて練習場へ向かっていった。口角を下げたまま……。