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米ツアー3勝のゴルファーが口にした
「もっと稼ぎたい」という言葉の真意。
posted2019/04/05 07:00
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph by
Getty Images
世界選手権シリーズのデル・マッチプレー選手権を制した35歳の米国人、ケビン・キスナーは、残念ながら日本では、ほとんど知られていない。
いやいや、米国でもキスナーが高い人気を誇るとは言い難い。それどころか、マッチプレー選手権の優勝賞金174万5000ドルを手に入れても「まだまだ足りない。もっと稼ぎたい」と言った彼のことを、ある米メディアは「モチベーションはマネー」と、まるで金の亡者のような見出しで紹介していた。
ビッグタイトルを獲得し、米ツアー3勝目を挙げたキスナーが「もっと稼ぎたい」と思っているのは事実だ。だが、そこには深いワケがあり、それを知っているアメリカ南部の彼の故郷の人々の間では、キスナーはすでに「ヒーロー」と崇められている。
そんなキスナーの人柄と彼が必死にゴルフで戦う真意を、マスターズを目前に控える今、日本のみなさんに是非とも知ってほしい。
父親からの、最初で最後の援助。
キスナーはアメリカ南部のサウス・カロライナ州アイケンという小さな町で生まれ育ち、ジョージア大学を卒業後、2006年にプロ転向した。
まず草の根のミニツアーを転戦して腕を磨き、そこから下部ツアーへ、そして夢の米PGAツアーへとステップアップしていく順路を思い描いていたが、試合のエントリーフィーや転戦費用を支払うためには、ある程度まとまった元手が必要だった。
大半のミニツアー選手たちは副業やアルバイトをしてお金を稼ぎながら、そうした費用を賄う。だが、キスナーはプロ転向した際、父親から軍資金として1万6000ドル(約176万円)を授けられたそうだ。
「あれは父からの最初で最後の経済的援助だった。以後は1ドルたりとも父からもらったことはない。毎週のように自分で車を運転して全米各地の試合会場へ行き、戦っては稼ぎ、賞金で帰りのガソリン代と食事代を賄い、なんとか自力で家に帰る。その繰り返しが僕を強くしてくれた。父からもらったあの軍資金があったからこそ、そういう体験を積むことができ、だからこそ今の僕がある」
稼がなければ、生きていけないし、生き残れないとキスナーは痛感し、稼ぐこと、つまり「マネー」が彼のモチベーションになっていたことは事実だった。