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プロレスで他人の技を使うのはOK?
豊田真奈美のツイートで論争が勃発。
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byAFLO
posted2019/04/02 11:00
長州力の得意技と言えばサソリ固め。藤波辰巳の“掟破りの逆サソリ”はテレビ中継を見るファンにとって衝撃だった。
藤波の“掟破りの逆サソリ”。
ただ、それは不文律であり、長い間観客に知らされることはなかったが、そのタブーであることが表に出たのが、'80年代前半に展開された藤波辰巳(当時)と長州力のいわゆる名勝負数え歌。
この一連の抗争の中で藤波は、長州のデビュー時からの得意技であるサソリ固めをあえて仕掛け、これをテレビ朝日『ワールドプロレスリング』実況アナウンサーだった古舘伊知郎が「掟破りの逆サソリ!」と表現。
「他人の得意技を使用してはならない」という業界の“掟”の存在が、古舘の名文句によってさらりと明らかにされることで、「あの正統派の藤波が、業界の掟を破ってでも長州には負けたくないんだ」という思いが、ファン、視聴者にも伝わり、抗争はさらにヒートアップしたのである。
その後、ライバルの得意技をあえて使うという“掟破り”は、様々なレスラーによって行われるようになり、掟自体が有名無実化。徐々に掟破りでもなんでもなくなっていったが、現在もそれが“鉄の掟”として存在するとされる団体がある。
世界最大のプロレス団体WWEだ。
WWEでは使用技をしっかり管理。
WWEではコスチューム、キャラクター、入場テーマ曲、そして使用する技などすべてが、その選手を構成する重要な個性であり、しっかりと管理されており、他の選手の得意技を使用することは許されていないと言われている。
そのため、プロレスリング・ノアのエースだったKENTA(ヒデオ・イタミ)は、WWEに移籍した際、自身のオリジナルの必殺技であるGo 2 スリープは、すでにCMパンクのフィニッシュ技となっていたため、一時期、オリジナルの使い手であるにも関わらず、使用することができなかった。
また、カイリ・セインこと宝城カイリがWWEと契約した際も、フィニッシュ技のダイビング・エルボードロップが“禁止ワザ”となるのではないかと懸念されていた。当時のWWEではすでに同じ女子選手のベイリーが、WWE殿堂者ランディ・サベージをトリビュートし、「マッチョマンエルボー」の名称でダイビング・エルボードロップを使っていたからだ。
しかし、カイリには使用許可が出たらしく、そのダイビング・エルボードロップを武器に「メイ・ヤング・クラシック」第1回大会(2017年)で見事に優勝。その後、正式に「インセイン・エルボー」というオリジナルの名称が付き、現在は“スポーツエンターテインメント史上最も美しいエルボードロップ”という評価を得ている。