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稀勢の里の引退を復活の力に!
楽天・美馬を突き動かす反骨心。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2019/03/23 11:00
キャンプでは順調な仕上がりを見せた美馬学。再起を目指すチームにとって、心強いピッチャーが戻ってきた。
横綱から届いた「2桁勝利おめでとう」
この年、美馬も躍進を印象付けた。
開幕投手の大仕事を裏切ることなく6回3失点とゲームを作り、前半戦で7勝。初めてオールスターに選出された。31歳の誕生日となる9月19日の日本ハム戦では完封劇を演じ、自ら初の2桁勝利を祝った。
試合後、美馬のスマートフォンにメッセージが届いていた。
<2桁勝利おめでとう>
送り主は稀勢の里だった。もちろん、嬉しかった。だが、この時の美馬は、初めての10勝の余韻に浸るよりも、メールを送ってくれた友人を気遣う自分がいたという。
「僕が心配するのもどうかと思うんですけど、相当きつそうだから。あんな怪我をして大変なのに、僕を気にしてくれているのはありがたかったんですけどね」
当時、稀勢の里は苦しんでいた。新横綱として臨んだ3月場所で左大胸筋を断裂し、満身創痍の状態ながら2場所連続の優勝を遂げた。横綱として面目躍如を果たしたわけだが長期休場を余儀なくされ、結果的にその大怪我は引退の引き金となってしまった。
美馬の右ひじには6度のメスが。
美馬にとって怪我は他人ごとでは済まされない悲劇だ。
自身もアマチュア時代を含めれば、6度も右ひじにメスを入れている。リハビリのプログラムを満了し、トレーニングを経て、マウンドで力を入れて投げる。その際に襲い掛かる恐怖心は、慣れることがない。
今年のキャンプでも、美馬はこのように不安を吐露していたものである。
「いくらしっかりリハビリをしたとしても、実際に投げ込みの段階になったらかなり気持ちを落ち着かせますよね。ボールを投げる前に『これが最後かな?』って、毎回思っちゃいますもん」
手術をする。心に潜む悪魔の囁きを制圧し、マウンドに帰る。その不撓不屈の精神を支える大きな要素がある。
美馬の体格だ。