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イチローがプロ28年目の開幕を迎える。
逆境でもこの人なら、きっと――。
posted2019/03/14 17:45
text by
田村航平(Number編集部)Kohei Tamura
photograph by
Naoya Sanuki
イチローvs.大谷翔平を見に行こう。
昨年のゴールデンウィークに、そう思い立ってアメリカへ飛んだ日本人は多かったはずだ。私もその1人で、休暇を取って5月4日にシアトルに着く便を予約した。
しかし、出発前夜に衝撃のニュースが舞い込む。
イチローがベンチ入りメンバーから外れ、会長付特別補佐という役職でフロント入りするという。
「最後の試合」となった5月2日のアスレチックス戦も、傍目にはいつもと変わらないように映っていた。この試合をスタンドで観戦していた、日本人ファンの1人が言う。
「あれが特別な試合だったなんて、まったくわかりませんでした。そういえば1、2打席目は投手がクイックで投げてきたので、イチロー選手のルーティンが短くなってしまったのですが、最後の打席は投手がじっくりセットポジションに入ったこともあって、イチロー選手はいつも以上に丁寧にバットを掲げていたように感じました。それも、あとから思えばという話ですが……」
予定通りにセーフコ・フィールド(現・T-モバイルパーク)に到着した私は、イチローと大谷の対戦ではなく「追いかけっこ」を目撃することになった。
今まで見たことがない奇妙な状況。
一方、その日からのエンゼルス3連戦では、試合以上に心を動かされる光景に出会った。
イチローが試合前の練習にレギュラーメンバーと同じように参加し、誰よりも熱のこもったプレーを披露している。誰よりも軽快に走り、誰よりも力強くバットを振った。試合が始まると、その姿はダグアウトから消える。そして、マリナーズが勝利を収めると、ユニフォーム姿でグラウンドに出てきてナインを労った。そんな選手は今までに見たことがなかったし、奇妙な状況でもある。