テニスPRESSBACK NUMBER
連覇逃した女王に明るい表情。
目が離せない“なおみ劇場”は続く。
text by
吉谷剛Tsuyoshi Yoshitani
photograph byAFLO
posted2019/03/13 18:15
ライバルのベンチッチに敗れるも、笑顔を見せた大坂。新コーチとの関係も良好のようだ。
ファンの声援が最大の原動力。
その心境を、彼女は開幕前にインスタグラムに英語と日本語でつづった。
「私を見て凄く嬉しそうにしている沢山の子供達から写真やサインを頼まれたり……。正直言って涙が出そうです。こういう時、私の気持ちは充実感で一杯、それで気付きました。テニスの事だけじゃないんだって。次の時代の為に何か感化するっていう事……思うと8歳の時ボロボロの公営コートで練習してたのは昨日の様(笑)で、実際今こうして私が子供を励ませる立場である事は本当に凄い光栄です」(原文を一部抜粋)
日本語の字面こそ堅苦しいが、英文をそのまま読むとその言葉は彼女の優しさに満ちていて、とても柔らかい。
大坂は笑顔で言う。
「元々は注目されるのは好きじゃない。でも昨年までと違って3番コートで練習をするとたくさんの人が見に来てくれる。サインを求めに来る子供たちがとてもかわいい」
世界1位の重圧との向き合い方を模索していく中で、ファンの声援が彼女の大きな原動力になっている。
「私の人生へようこそ」
ファンの他に女王の新たな戦いを支えるのが、新コーチのジャーメーン・ジェンキンス氏だ。ビーナス・ウィリアムズのヒッティングパートナーや全米テニス協会(USTA)のコーチを歴任し、陽気だった前任のサーシャ・バイン氏とは対照的な寡黙な仕事人といった黒人男性だ。
ベンチッチ戦。大坂は第2セットで1-4と劣勢に追い込まれた場面で2度目のオンコートコーチングでジェンキンス氏を呼んだ。
新米コーチは冷静に試合を分析し、アドバイスを送る。
「ベンチッチはベースラインに近づいて低い球を打ちうまくコントロールしてきている。相手は本当に高いレベルでプレーをしている。なおみは自滅をしているような感じだ」
落ちついた口調で試合を修正しようと諭していた途中で、思わぬカウンターが大坂から飛んできた。
「私の人生へようこそ」
ジェンキンス氏は少し戸惑って「あなたの人生へ?」と笑った後に「まだ戦い続けよう。サーブの球速の変化をつけたり、これまでと違いを見せよう」と、再びコートに送り出した。しかし、残念ながら流れは変わらなかった。