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イチロー「この18年で飛距離は一番」
大谷ばりの打球を生む新フォーム。
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byAFLO
posted2019/02/23 11:30
イチローは毎年のように自らの技術を更新し続けている。今年は格別のパワーを見せてくれそうだ。
「この18年間で一番飛距離が伸びている」
まずは構え。以前より深く左手首をかぶせてバットを握る。このグリップはリストが効き飛距離が出るとされる。そこから投手の始動と同時に両膝を深く折り、重心が下がる。テークバックは捕手側へ大きく深くとられ、バットヘッドが投手方向へと少し傾く。
これら一連の流れで左股関節にため込んだパワーを一気に解き放ち、右股関節で受けとめながら回転させる。バットはレベルからアッパー気味に振り抜かれ、フォロースルーも大きい。
このねじれの原理と股関節でパワーを生み出し、バットへと伝える新打法は昨年10月末から着手し、イチローは手応えを感じ取っていた。
「この18年間で一番飛距離が伸びているのは間違いないです」
「責任のない意見は裏切りたい」
45歳にしての現役復帰。期待を寄せる声とは裏腹に世間には様々な意見がある。
昨年の5月2日のアスレチックス戦を最後に会長付き特別補佐へと立場を変えた事実に、「実戦の勘は維持できているのか」。他にも「動体視力」を疑い「限りある25人枠を45歳に与えるのか」などと、ネガティブな意見は飛び交う。
それでもイチローにはプライドと自負がある。日本人野手として初めて海を渡り、ルーキー時にはMVPと新人王に輝き、'04年には262安打を放ち、メジャーのシーズン最多安打記録を84年ぶりに塗り替えた。
新人からの10年連続200安打も10年連続オールスター出場、ゴールドグラブ賞受賞も長いメジャーの歴史の中で彼だけが成し遂げた大記録。近年でも、殿堂入り確実の3000安打、42歳を超えてからも150キロ超のパワーボールに力負けしない打撃技術を構築し、一塁までの到達スピードも自己最速を更新した。
キャンプイン後、イチローはこの言葉を選んだ。
「誰もやっていないことに挑戦するというのは、僕はいくつか結果として残してきた。いつも期待を裏切りたいという気持ちはある。安易な責任のない意見。そう言うものは裏切りたいと思っています」
期待を裏切るものとして用意したものの第1弾、それが45歳にしての飛距離アップの新打法。3月20、21日の日本開幕戦出場だけでなく、シーズンの完走を見据えるイチローが、オープン戦を戦う中で用意している“裏切り”とは何なのか。楽しみでならない。