ブックソムリエ ~新刊ワンショット時評~BACK NUMBER
二軍にかける熱すぎる情熱。~江川や落合、ジャイアント馬場まで登場するプロ野球二軍の物語~
text by
幅允孝Yoshitaka Haba
photograph byWataru Sato
posted2017/02/20 08:00
『二軍史 もう一つのプロ野球』松井正著 啓文社書房 2000円+税
まるで教科書のような装丁だが、この本は二軍を通じてプロ野球を見る極上のエンターテインメントだ。そして、詳細なデータを駆使して様々な物語をあぶり出した狂気の傑作とも言える。
プロ野球は1球団最大70名の「支配下登録選手」を保有することが認められるが、公式戦に出場できるのは28名のみ。その狭き門に滑り込めなかった者たちは自動的に二軍に振り分けられる。本書は、1948年7月4日(奇しくも米国独立記念日だ)に函館で行われた初の試合から二軍史を丁寧に追いかけ、知られざる逸話を次々と明らかにしていく。
広島の二軍がわずか2カ月で解散する事件もあれば、巣鴨プリズンでの慰問試合もあった。1万人以上が駆けつけた巨人軍多摩川グラウンドの開場は大きな出来事だったが、それ以前は多摩川オリンピア球場を借りる手続きのため選手が毎朝電車に乗って東急事務所で申請していた話にはもっと驚いた。ジャイアント馬場や尾崎将司など、のちに異業種で活躍した人物の二軍での日々や、「空白の一日」事件を経て巨人に入団した江川卓が二軍初登板で落合博満に簡単に打たれた逸話も面白い。王貞治やイチローらの名選手が二軍で残した成績から彼らの下積み時代を窺い知ることもできる。