ブックソムリエ ~新刊ワンショット時評~BACK NUMBER
プロ野球選手も労働者なのである。~労働経済学で考えるプロスポーツの報酬~
text by
幅允孝Yoshitaka Haba
photograph byWataru Sato
posted2016/07/25 08:00
『プロ野球の経済学』橘木俊詔著 東洋経済新報社 1500円+税
労働経済学の視点からプロ野球を眺めてみると、今まで見えなかったものがこんなにも浮かびあがってくるのか!
著者の橘木俊詔は1943年に兵庫で生まれた阪神ファン。そして、京都大学の名誉教授も務める経済学のプロフェッショナルである。最新刊『プロ野球の経済学』は、帯をとってしまえば何とも素っ気ない経済本にしか見えない。ところが、このシンプルな1冊は労働経済学の本質を野球愛が包みこんだ実にユニークな読み物となっているのだ。
新規参入が極めて困難なギルド的体質を持つプロ野球界での経営作法とは? 被雇用者と思われがちな選手を単年契約の自営業者と捉えたとき、その採用・解雇・移籍や年俸はどう考えれば良いのか? '04年に起こった日本プロ野球史上初めてのストライキが労使関係に与えた影響とは? アメリカ大リーグの事例と比較しながら進む橘木節は、痛快ですらある。なかでも特に興味深く読めるのが、第4章の「プロ野球選手の給料は本当に高いのか」。1億円以上の年俸を稼ぐ選手が存外に少ないことを示しながら、彼らがそれだけの報酬を得る理由を限界生産力原理、トーナメント理論、スーパースターの経済学から明らかにする手並みは見事。また、清原和博と桑田真澄の生涯年俸を計算し、「記憶」が評価に及ぼす影響について示唆している部分も興味深かった。「最近は人気に陰りが……」といわれるプロ野球界。だが、新しい視点を取り込めば、まだやれることは沢山あると気付くはずだ。