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開成→東大→なぜ競馬の調教師?
林徹「学歴に興味ないですから」
posted2019/02/10 08:00
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph by
Kiichi Matsumoto
その学歴を聞けば「現在は競馬の調教師」というのは、
誰もが驚くだろう。2018年にそのスタートを切った林徹調教師に迫った、
Number964号(2018年10月25日発売)の特集を全文掲載します!
今年3月1日、林徹は調教師として美浦トレーニングセンターに開業した。開成高を経て東大卒。経歴を見るに学業エリートそのものだから、「異色」の2文字はつきまとう。
「開成に行こうなんてまったく思ってなかったんです。実力試しで受験したら受かってしまって、親もその気になっちゃった。ほかに行きたい高校があったので大ゲンカしました」
予備校には一切行かないでいいという言質をとり、林は譲歩した。野球部の活動には励んだが、勉強はしなかった。模試の結果は「東大E判定」。だが浪人を覚悟して受けた入試で、なぜか合格した。
39歳は真顔で断言する。
「ラッキーです。問題がとんでもなく難しかったみたいで、できると思っていた人はパニックになったんでしょうね。自分なんて『ケセラセラ(なるようになる)』。何にも動揺しなかった」
教科書代わりに競馬ブック。
競馬との接点は中学2年時にまで遡る。'93年、ウイニングチケットが制したダービーをたしかテレビのニュースで見た。ゴール前の実況と、柴田政人騎手のインタビュー。断片的な映像と音声は「競馬の『ケ』の字も知らなかった」14歳の心に残る。
高校では教科書の代わりに『競馬ブック』を読みふけった。2年生になり、『銀の夢――オグリキャップに賭けた人々』という本に出合う。競馬を職業として意識し始めたのはこの時からだ。
東大に入ってなお、林は勉学と距離を置き続けた。3年生からの専攻を決める進学振り分けで医学部看護学科に進んだのは、成績的に「そこしか行くところがなかった」からだと笑う。