「あいつ、どうしたんだ!?」

　夏を過ぎると彼の守備力は格段に増し、攻撃に絡んだ時の精度もより研ぎ澄まされていた。

「天笠はクレバーな選手で、努力家でもあるし、真面目な選手で言った事をきちんと理解しようとする柔軟性と素直さがあった。だからこそ、どんどん守備力も上がっていったし、フィジカルも相当強くなっていったんです。

　何より決してさぼることなく、常に追いかけ回せる体力とメンタリティーが身に付いて、急激に伸びていった」

　黒田監督もこう言って舌を巻くほど、凄まじい上昇曲線を描いて急成長した天笠は、高校サッカー生活最後となる選手権大会で、冒頭の大活躍を見せたわけだ。

「夏以降、天笠のプレーを観ることができていなかったので、選手権での急成長したプレーは『あいつ、どうしたんだ!?』と思うくらい衝撃でした。

　同時にあいつが昔、どれだけ苦労してきたかを間近で見て知っていたから、涙が出るほど嬉しかった。

　これまではTwitterで人のことを推すことは無かったけど、天笠に関してはつぶやかずにはいられませんでした（笑）」（郷家）

「弱い自分のリアルな姿を」

「間違いなく、今ならプロに一番近い存在。でも、大学の4年間で自主性を持って、自分を高めていくことをより身に付ける事ができれば、大卒プロになってもより価値のある選手になると思う。

　必ずしもプロになった事が人生の成功ではない。いろんな道を辿りながら、最終的に光りたい世界で光ってくれれば良い。

　4年後、アイツはより存在感を放つと思う。大学でも早い段階で頭角を現してくると思うし、大学選抜やユニバーシアード、年代別代表もかなり可能性があると思う。さぼらない限りはね」（黒田監督）

　2人の熱いエールを受け、天笠はこれからについて、こう力強く宣言した。

「弱い自分のリアルな姿を高校3年間で本当に痛感させられました。でも、それが分かったからこそ、これから先、どんなことがあっても自分から逃げないで立ち向かっていける自信と覚悟を磨く事ができました。

　すべては自分次第だからこそ、大学で頭角を現して、郷家さんが待つプロの世界に飛び込んで、黒田監督やみんなに恩返しをしたい。今はもう関西大で全力を尽くす事しか考えていません」

　天笠泰輝。

　彼の名前を忘れてはいけない。指揮官や偉大な先輩から寵愛される男の成長物語は、今はまだ序章にしかすぎないのだから――。