濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
メイウェザー狂想曲は何を残した?
那須川天心TKO劇の衝撃と“謎”。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2019/01/07 17:00
“ザ・マネー”フロイド・メイウェザーに真っ向勝負を挑んだ“神童”那須川天心。しかし向き合うと凄まじい圧力を感じたという。
「もしかして」というロマンを……。
こうなって当然などと、結果論でわけ知り顔をするつもりはない。
筆者自身「もしかして」と思っていたのだ。キックボクサーとしては規格外にハイレベルなパンチを持つ那須川なら、と。41歳、引退したメイウェザーが、もし那須川をナメてかかってくれるなら“見せ場”の一つくらいは作れるのではないか。そういう想像をしなかったとは言わない。素人と笑われるかもしれないが、そういうロマンを抱かせてくれる選手なのだ、“神童”那須川天心は。
実際のところ、メイウェザーはナメていたのか。
これもよく分からないところがある。
試合当日に銀座へ買い物に行き、叙々苑で食事し、ホテルの窓から見えた富士山に「今から行こう」と言いだしてスタッフに止められたという“ザ・マネー”。榊原信行RIZIN実行委員長によると、ウォーミングアップなしでリングに上がったそうだ。
「一発当てたら凄いプレッシャーを」
その一方で、那須川をナメていないからこそ倒しにいったと見ることもできる。
最初のダウンを奪った左フックにしても、那須川のガードの奥、耳の裏あたりにコントロールしていた。その場の判断か研究の成果かは分からないが、遊び半分で打つパンチなのだろうか。
「(メイウェザーは)最初はナメてきたけど、一発当てたら凄いプレッシャーをかけてきた。こっちが打とうとすると全部、フェイントをかけてきたり」という那須川のコメントもある。いや、そのすべてが遊び半分だったと言われてしまう可能性もあるのだが。メイウェザーの言う「エンターテインメント」は「真剣なスポーツではない」という意味にも「観客を楽しませるためにKOする」という意味にも取れる。
最初から最後まで、メイウェザーは“謎”だった。