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クルトワからの9.35秒を味わって。
長友佑都はもっと走りを追求する。
posted2019/01/07 10:30
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph by
Miki Fukano
ピッチの中でも、外でも。チームのためなら何でもやる。
自分にできることは、すべてやったという自負がある。
それでもベルギー戦の9.35秒間に世界との差を感じた。
日本が16強の壁を超えるために、伸ばすべきポイントとは。
Number958号(2018年8月2日発売)の特集を全文掲載します!
6月29日、日本代表が決勝トーナメント進出を決めたポーランド戦の翌日。西野朗監督は、選手・スタッフ全員を宿舎の一室に集めた。一人ひとりの顔を見渡すと、静かに語り始めた。
「ベスト16という素晴らしいステージに立てることになったにもかかわらず、俺はみんなが心から喜べるような状況を作ってやれなかった。申し訳ない」
ポーランド戦のラスト10分間、0-1で負けている状況の中でパス回しを指示し、コロンビアvs.セネガル戦の結果に自分たちの運命を託したことへの謝罪だった。
硬い表情のまま指揮官の言葉を聞き終えた長友佑都は、意を決して口を開いた。
「西野さん、謝らないでください。W杯という舞台でベスト16に進んで、これから決勝トーナメントで勝負できる。選手として、こんなに幸せなことはないですよ。そこに導いてくれたのが西野さんだし、ここにいるスタッフです。まずはそれに感謝したい」
さらに言葉を続けようとすると、急に涙が止まらなくなった。
「ブラジルW杯でめちゃくちゃ悔しくて。この4年間、本当に苦しかった。どんな思いで4年間を過ごして、ここにたどり着いたか……」
これ以降は、ほとんど言葉にならなかった。そんな長友の姿を、選手・スタッフ全員が温かく見守っていた――。
W杯は「まず、楽しむこと」。
ロシアW杯に向けた合宿に入る前、長友には心に決めたことがあった。
「まず、楽しむこと。こんなに素晴らしい大会に出るのに、楽しまないのは損だなって思ったんです。過去2大会は、ミスしたらどうしようとか、重圧や不安、怖さをすごく感じていました。今回は、そんな不安は忘れて、とにかく自分自身が楽しむ。そしてピッチ内だけじゃなく、ピッチ外でもチームのために何ができるかってことを、ずっと考えていました」