オリンピックPRESSBACK NUMBER
劇場に響く「WE WILL ROCK YOU」。
フェンシング日本一決戦の超演出。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph bySho Tamura/AFLO SPORT
posted2018/12/11 07:00
普段は演劇などを上演する東京グローブ座にて各種目の決勝が開催された。
審判の心拍数も可視化。
さらに見せ方の手法もさまざまな展開を見せ、舞台上のライトをピストに当てるだけでなく、どちらの選手がポイントを取ったか赤と緑のLEDで表示することで明確にする。加えて、今大会では利き腕と反対の腕にハートレイトモニターを装着し、リアルタイムで大きなビジョンに選手の名前や所属、身長、年齢と共に心拍数を表示。
その数値は選手によって異なり、ポイントが競り合う終盤では200を超えることもあり、どの場面で選手の心拍数が上がるのかが一目瞭然、それだけでも見応えは十分だ。
だが太田の仕掛けはそれだけではない。選手だけでなく、審判の心拍数や応援の音も集音し、熱量を可視化させ、どの場面で一番盛り上がったか、試合直後に映像と共に見せた。
「審判の心拍数を表示するなんて太田は悪趣味だ、と言われるかもしれませんが(笑)、アスリートファースト、オーディエンスファーストはもちろんですが、そこには審判もいないと試合が成立しません。選手だけでなく厳しいジャッジの時には審判も『こんなに心拍数が上がるのか』とお客さんに伝わる。ただの勝ち負けだけでなく、その前後のストーリーをどうつくるか、というのを大切にしました」
選手たちも空間を有効活用。
息遣い、ピストを足で擦る音。11月にスイスで行われたW杯で通算3度目の優勝を果たし、全日本選手権のポスターにもなった男子エペの見延和靖も「観客の顔がはっきり見える。これだけの距離感は経験がない」と言うほど、より近い場所で見る観客も選手と同じように緊張感を味わう。
見る者を引き込む空間づくりもさることながら、心拍数の表示は思わぬ効果ももたらした。11年以来2度目の全日本王者となった男子サーブルの徳南堅太はこう言った。
「心拍数は常に僕らの横目に入ります。(対戦相手の)ストリーツ選手の心拍数が低くて『落ち着いているな』と思ったけれど、後半に僕がポイントを重ねると心拍数が上がった。『焦っているな』とうまく使うことができました」