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「応援には結果で応えたいと思っている」
女王・野中生萌のまっすぐな“野望”。
posted2018/12/14 11:00
text by
津金壱郎Ichiro Tsugane
photograph by
Miki Fukano
今シーズンの女子ボルダリング界で、もっとも輝きを放ったのは野中生萌だった。
ボルダリングW杯では自身初めて“年間女王”の座につくと、11月に鳥取県倉吉市で開催されたアジア選手権ではスピード種目の日本新記録を連発。日本人女性で初めて9秒の壁を超える8秒57をマークした。
勝敗にかかわらず、会心のクライミングができると笑顔を弾けさせて全身で歓びを表す21歳に、今シーズンの振り返りと来季の目標、そしてオリンピックへの思いを訊いた――。
野中がボルダリングW杯にデビューしたのは2014年。高校2年生で臨んだシーズンの第6戦フランス・ラヴァル大会で2位となって初めて表彰台に立つと、2016年シーズンはインド・ナビムンバイ大会で念願の初優勝を果たし、最終戦のドイツ・ミュンヘン大会でも優勝。
着実に成長を遂げて年間ランク2位に上り詰めたことで、周囲はもちろん、本人も「年間王者を意識して」2017年シーズンを迎えた。だが、結果は7大会中2戦で準決勝敗退を味わうなど年間ランク4位に終わった。
その悔しさを晴らすべく臨んだ今季は、開幕戦のスイス・マイリンゲン大会を制すと、その後は安定した成績でポイントを積み重ね、最終戦のドイツ・ミュンヘン大会で年間タイトル獲得を決めると涙が溢れ出た。
「やっぱり目指していたものだったので、最高にうれしかったです。1試合の結果だけでは手にできないものだし、シーズンを通じて安定して戦えた証なので自信になりました。去年は思いっきり意識したのに全然ダメだったこともあって喜びは大きかったですね」
昨季はW杯未勝利に終わったことで、今季は開幕に向かうスケジュールをこれまでとは変更した。3月にドイツでの『スタジオ・ブロック』というイベント・コンペに出場し、ボルダリングW杯でもトップを争うヤーニャ・ガンブレット(スロベニア)、ファニー・ジベール(フランス)との緊張感の高い試合を制したが、これが「ハマった」と野中は振り返る。
「毎年、ボルダリングW杯の初戦は探り探りだったんですよね。でも、今年は『スタジオ・ブロック』で調子をつかんで開幕戦に向かう流れを試したら、気持ちが今までのシーズンとは全然違って初戦から噛み合った。すごく強いヤーニャに開幕戦で勝てて、2戦目のロシア大会やミュンヘン大会でも食らいついていけた。去年よりも成長できている手応えがありました」
開幕戦で優勝して以降は全戦で2位だったが、その内容は優勝と紙一重なものばかり。完登数とゾーン獲得数では並びながらも、アテンプト差(課題にトライした回数)や前ラウンドの通過順位で、優勝がスルリとこぼれ落ちた。