フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
カナダで邂逅した2人の女王と新星。
山下真瑚という日本の新ヒロインも。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAkiko Tamura
posted2018/10/31 16:30
左から、銀メダルの山下、金のトゥクタミシェワ、銅のメドベデワ。15歳の日本の新星、21歳、18歳の元女王らは、揃って北京冬季五輪を目指す。
メドベデワは、予想外のSP7位。
「エリザベータが優勝したことを、まず祝福したいです。彼女のことを尊敬しています。ここで同じ表彰台に上がれて光栄でした」と会見で開口一番に語ったのは、エフゲニア・メドベデワだった。
2014年12月のバルセロナGPファイナルでトゥクタミシェワが優勝したとき、ジュニアGPファイナルで優勝したメドベデワ。彼女にとってトゥクタミシェワは大先輩である。
メドベデワは平昌オリンピックで銀メダルに終わった後、カナダに拠点を移してブライアン・オーサーとトレイシー・ウィルソンの指導を受けるようになった。ロシアのトップ選手がロシア人の恩師の下から去って北米のコーチについたのは、かつて前例がないことである。
ロシア人ジャーナリストによると、国内での彼女に対するバッシングは半端なものではないという。
そんなプレッシャーを抱えて滑ったメドベデワだが、SPではコンビネーションジャンプでミスをして、7位スタートという予想外の展開になった。
「ブライアンとトレイシーに感謝の気持ちを込めてノーミスの演技をしたかったのだけど」と言って悔しさに目をうるませたメドベデワ。
「今日のミスのことは、一生忘れない。絶対に同じミスをおかさないと約束できます」
世界女王の意地を見せたフリー。
そう言って挑んだ翌日のフリーだった。
メドベデワは以前から滑りたかったというアストラ・ピアソラのタンゴのメロディにのって、迫真の演技を見せた。3ルッツ+2トウループ+2トウループから開始し、最後の3ループが回転不足の判定を受けたものの、パフォーマンスとしては傷ひとつない演技だった。
会場はスタンディングオベーションに包まれ、ようやく女王に相応しい演技をしたメドベデワを讃えた。
だが実は本人は集中しきっていて、全く周囲が目に入らなかったのだという。
「言いにくいのですが、滑り終わってからも、お客さんのスタンディングオベーションも本当に気がつきませんでした。あの会場の中で見えたのは、ブライアンと、カナダのテレビ局ブースのところにいたトレイシーの2人だけ。後は何も目に入らなかったんです」
この恐ろしいまでの集中力。
これが彼女を2度の世界女王の座に押し上げたのに違いない。
フリーは137.08でトップ。総合197.91で3位に食い込んだ。
「自分が選んだ選択は、間違っていなかったと確信できました」と口にしたメドベデワ。彼女にとって、まだまだ新しい戦いは始まったばかりである。