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ボクシングを、やり切りましたか?
村田諒太に聞きたいたった1つの事。
posted2018/10/30 10:30
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
AFLO
世界タイトルマッチ取材の恒例行事に、「一夜明け会見」がある。
試合翌日、ボクサーにあらためて試合を振り返ってもらったり、今後のプランなどを語ってもらうべく用意される。しかし大体は、勝利または引き分けで防衛するなど、チャンピオンベルトを保持している場合に限られる。
ラスベガスのメーンで指名挑戦者ロブ・ブラントに大差の0-3判定で敗れた村田諒太が、決戦の舞台となったパークシアターに入ってきた。リングも、きらびやかな照明設備も撤収された、その空虚なスペースに。
ベルトを失った村田は、メディアの質問に対してひとつひとつ丁寧に応じた。
異例の一夜明け会見は、ラスベガスまで取材に来た取材陣に配慮したのかなと最初は思った。しかし彼の話を聞いているうちに違う考えに至った。
すべてやった、という自負を携えて。
試合のなかで後悔はなかったか? 筆者も聞きたかった質問が飛んだ。
村田は落ち着いた口調で、こう語った。
「練習は100%でしてきましたし、過程においてああしておけばよかった、こうしておけばよかったというのはなかった。過程においてこれだけやってきたという自信があるので。だから後悔はないです。
嫌な出来事だって悔しい出来事だって何年後かに振り返ったときに、あの出来事があったからこうなんだとか、それが成長させてくれたと思うのが、自分の人生経験のなかにあるので、(今回も)そういう日に、できるように。あの経験があったから今があるんだと思えるような人生を歩んでいかなきゃいけないな、とそれだけですね」
顔の腫れを隠すためにサングラスを着けていたため、表情から感情を読み取ることは難しい。だがウェットなものを彼から感じることはなかった。
100%の準備と、今やれることはすべてやったという自負が村田からは漂っていた。彼はその自負を携えて、1人、メディアに囲まれていた。