ボクシングPRESSBACK NUMBER
ボクシングを、やり切りましたか?
村田諒太に聞きたいたった1つの事。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byAFLO
posted2018/10/30 10:30
村田諒太はあまりに多くのものを背負って戦っていた。1人のボクサーとして、今彼は何を考えているのだろうか。
敗北自体は、サプライズではなかった。
予想外の負けだったのか。
いや違う。相手は指名挑戦者であり、速射砲のスピード型のブラントはパワー型の村田とすれば苦手なタイプ。空回りさせられてしまう展開も十分に考えられた。
地元MGMのオッズは、村田の勝利を強く支持した。村田が1.62倍、ブラントが4.5倍と大きな開きを見せた。タフで鳴らすアッサン・エンダムからTKO勝利を収めてタイトルを獲得した実績、ゴールドメダリスト、そしてラスベガスの初メーンという期待感も反映していたに違いない。
一方のブラントは全米ゴールデングローブのライトヘビー級優勝者というアマの実績もあるものの、プロで強者と戦った実績は昨年のWBSS(ワールドボクシングスーパーシリーズ)スーパーミドル級初戦で、判定負けした元世界王者ユルゲン・ブレーマー戦ぐらい。だがその試合でインパクトを残せなかったことで評価を上げられていない。その差がオッズにあらわれた。
しかし1ラウンドは、いかに村田にとって難儀なファイトになるかを予感させた。
固いガード、プレッシャー、強打の右。
村田の特長を、100%で崩しに掛かってきた。威力自体は小さくともスピーディーな連打でガードをこじ開けて、顔にヒットさせていく。村田の重い1発をかわして、パンパンパンパーンとリズム良く打ち返す。村田が前に出てきたらステップでかわし、村田が右を狙ってきたら、打ち終わりに合わせていく。
念入りに対策を積んできたことがすぐに理解できた。そして1ラウンド途中、村田の鼻をとらえた右アッパーは、断固たる決意を感じさせた。2ラウンドもブラントのダンス&ヒットは軽快なリズムを刻んだ。
村田はギアを引き上げようとしたが。
とはいえこのまま行くとも思えなかった。
私だけでなく、リングサイドで見ていた多くの人がそう思ったはずだ。ブラントは明らかにオーバーペースで、息切れするのは目に見えていた。村田がジリジリとプレッシャーを強めていけば、ブラントはいずれ持ちこたえられなくなるのではないか、と。
実際に、その展開に近づいていった。3ラウンドから村田は流れを変えようとギアを一気に引き上げる。プレッシャーを強めて、ジャブを突き、ボディーを当てる。
そして5ラウンド、ジャブを食らって顔つきを変えた村田はスイッチが入ったかのように、右を打ちつける。浅いながらもブラントのアゴをとらえた。
だが、もう一段階上げたいギアにシフトできなかった。逆転の分岐点となる時間帯はあまりに短く、村田は己のペースに引きずりこめなかった。序盤に受けた速射砲のダメージが、反撃を遮った。そうとしか思えなかった。