ブラントは最後まで勝利を確信せず。

　6ラウンド以降、3人のジャッジは村田に1ポイントも与えていない。

　完敗である。

　しかしジャッジペーパーが映すほどの一方的な展開ではなかった。凡戦でもなかった。

　状況を打破すべく、村田は必死に抗おうとした。右に託し、打ち続けた。打開策を頭にめぐらせながら前進を続けた。だがその思考の回転を、ブラントの高速パンチが止めていく。終盤はそんな展開が続いた。

　村田コールに「USA！」の大合唱がかぶせられ、そのうえにまた村田コール。

　拳の交換が、コールを呼び起こさせた。お互いに気を緩めないヒリヒリ感は最後まであった。

　ブラントはすべてを出し切って勝利を手にした。いやすべてを出し切らないと、王座には届かなかったに違いない。

　新王者は、村田をリスペクトした。

「ムラタは強かった。王者になるには王者を完璧に上回らなければならなかった。勝ったとは思ったが、ムラタもいい仕事をした。だから（勝者を告げるコールで）“ニュー”と聞くまでは、確信できなかった。

　彼は勝つために必要なすべてのことをしていたから、僕はとにかく手を出した。当たっても笑ってガードを上げて戦いに戻るし、凄くタフだった。ムラタには敬意を表する」

　戦った者同士の感覚。「勝利を確信できなかった」必死の攻防が、ブラントを勝利に近づけたと言えるのかもしれない。

遠のいたゴロフキン戦。

　一夜明け会見の村田に戻ろう。

　ブラントの挑戦をクリアすれば、来年早々にゲンナジー・ゴロフキンとの超ビッグマッチが実現の方向に動こうとしていた。ラスベガスか、東京ドーム。目標にしてきたゴロフキンとの一戦が手に届くところにあったのに、掴むことはできなかった。

　サバサバした表情で彼は語った。

「ここで負けてしまったら、それもなくなると思っていました。勝てばそういうのが待っていたし、負ければそれがなくなるんだし、そういう運命になかったのかなと。というか自分の実力がそこに達していないんだなと、あらためて知るきっかけになりました」

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