野球クロスロードBACK NUMBER
楽天・岩見の24打数0安打14三振。
「慶應のバレンティン」のもがき。
posted2018/10/26 08:00
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Kyodo News
楽天から2位で指名され、脚光を浴びたドラフトから1年。ルーキーイヤーの今季、岩見雅紀(慶應大出身)は苦しんだ。
「全く打てていないのに、一軍の試合で使ってもらってありがたいです。1日、1日を無駄にしないようにしたい」
新人らしく気持ちは前向きだった。それが、ひとたび打席に立つと、忸怩たる思いに苛まれる自分に嫌気がさしてしまっていた。
なんで、バットが振れないんだ――。
187センチ、108キロの巨体が硬直する。明らかなボール球の変化球を空振りしたかと思えば、ストライクゾーンに入った甘いストレートを見逃し、三振してしまう。
5月18日の日本ハム戦でプロデビューを飾ってから安打は生まれていないが、二軍では打率2割8分4厘、14本塁打と、持ち味の長打力は発揮できていた。自信がないわけではない。しかし一軍の舞台で打席に立つと、委縮している自分がいた。
「二軍とやることを変えないように」
ホーム最後の3連戦でのことだ。岩見が心境をこう漏らしていた。
「二軍からやることを変えないようにしているんですけど、20打席くらいヒットを打てていないっていうことは、打ちたい気持ちが強すぎるのかもしれない。焦りがないわけではないんですけど、考えたところでいきなり打てるわけではないと思っているんで」
弱気な自分を制するように、強気の自分をあえて演じる。岩見は、その間で苦しんでいた。心が揺れていた。
こういった苦悩は、プロに入って初めて経験するわけではない。洗礼は、すでに受けていた。自らの現状を吐露した後、岩見は少しだけ笑みを見せ、こう続けた。
「でも、大学でもこういう経験はしてきているんで。2年まで試合にほとんど出ていませんでしたし、バットにボールが当たるよりも空振りが多かったくらいなんで」
慶應大での実績に触れれば、誰だって「岩見はすごい選手だ」と言う。東京六大学リーグ歴代3位の通算21本塁打。トータルの成績では群を抜く。だが、自身が語るように岩見は2年生までレギュラーではなかった。