スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
プリンセス駅伝のトラブルを考える。
ルールと連絡体制の再確認が必要だ。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2018/10/24 11:15
駅伝が大切であれば大切なほど棄権の決断は難しい。だからこそルールの整備が大切になるのだ。
レース進行と棄権申し込みのタイムラグ。
ここからは運用のための私なりの解釈だが、医療目的でファーストエイド、あるいは診察を受けるのは認められるべきで、審判員が介抱し、医療関係者を呼ぶのは認められるべきだろう。しかし、その時点で棄権とは判断する必要はなく、手当などを受けてから競技続行の判断を下してもいいのではないか。
これからロードレースのシーズンが本格化していくが、各審判員は「11条3項」を理解しておくことが大切だと思う。
そしてもうひとつ、課題として浮き彫りになったのは、連絡体制の不備である。
岩谷産業の廣瀬永和監督は、テレビで飯田の姿を確認してから、大会本部に棄権を申し入れていたという。ところが、現場の審判に伝わった時点ではもう残り20メートルということもあり、審判は制止しなかったという。
大会終了後、主催の日本実業団陸上競技連合の西川晃一郎会長は、
「今まで以上に選手の安全を第一に考えた大会運営を実施する。レース中の連絡方法などを検証し改善策を講じる」
とコメントしているので、チーム関係者、審判長、そして現場の審判員の連絡手段の確保は、今回の件で徹底されるはずだ。
中止の権限を持ってはいるが……。
また、連絡方法と並んで、実は「競技続行を中止させる権限」についても、検証しなければならない。
先の駅伝競争規準には「第3条 競技会役員の任務」が定められていて、以下のような条項がある。
3.審判長
(a)略
(b)不適当な行為をする競技者を除外させたり、競技続行不可能と判断された競技者を中止させる権限を有する。審判長の権限を技術総務、競走審判員、監察員等に委任しておく必要がある。
今回、3区での岡本の棄権については、彼女の後ろで車に乗っていた審判長が判断し、競技を中止させた。適切な判断だったと思う(ただし、岡本のファーストエイドについては万全だったとは言い難い。倒れて頭を打つのではないかとひやひやした。一時的な介護が徹底されていれば、もう少し違った対応になったのではないか)。
ただし、2区の飯田のケースでは審判長は車で先行しており、即座に判断することはできなかった。
今後、こうしたケースを想定して、権限を何人かに委任することを徹底しなければならない。