ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
村田諒太、夢のラスベガスで散る。
今後は「ゆっくり考えればいい」。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAFLO
posted2018/10/22 17:00
村田諒太が世界王者であることを当然と思い始めていたが、ミドル級はやはり怪物たちの棲む場所だった。
己の敗北を正面から受け止めた村田。
終わってみれば6回以降、村田がジャッジの支持を得たラウンドは1つもなし。スコアは119-109×2、118-110。数字の並びが村田の苦闘をなにより物語っていた。
「(ブラントが)思ったよりも速かった」
「右の打ち終わりをジャブで狙われたり、よく研究されていた。相手のインテリジェンスが上だった」
「ボクシングの幅の狭さを感じた。ベストは尽くしたが、届かなかった」
「再戦を要求するような内容ではなかった」
いずれも試合後の村田のコメントである。試合翌日の記者会見では、サングラス姿で次のように話した。
「自分のボクシングは脚で動かれるタイプに弱い。完全に攻略法を読まれていた」
いずれも己の敗北を正面から受け止めた発言だった。
「勝つだけではだめ」なはずが。
特大の期待を背負ってのラスベガス防衛戦だった。村田陣営はこの試合に完勝し、次なるビッグマッチにつなげようと目論んでいたのだ。
そのためには圧倒的な勝利で全米に実力をアピールし、ミドル級のツートップ、元3団体統一王者のゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)や人気ナンバーワンの2冠王者、サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)との対戦に突き進もうというプランだった。
帝拳ジムの本田明彦会長、浜田剛史代表はそろって「ただ勝つだけではだめ」と試合前からノックアウト勝利を公言するほどで、この試合にかける並々ならぬ意気込みが伝わってきたものだった。
世界で最も層の厚いミドル級で真の頂点を目指す─―というプロジェクトに周囲も動かされる。
初めて日本人の世界タイトルマッチを中継するDAZNは大量の広告を流してこの試合を宣伝。日本のメディアも大挙してラスベガス入りした。共同プロモーターのボブ・アラム氏は、試合直前の記者会見で「勝てば来春、日本でゴロフキンとの対戦を交渉する」とも発言。期待は膨らむばかりだった。