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吉田輝星、最高の高校ラストゲーム。
「金足だからしょうがないでしょ」
posted2018/10/12 11:30
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Kyodo News
10月10日、金足農高の吉田輝星がプロ志望を表明した。今夏の甲子園で金足農を秋田県勢103年ぶりの決勝に導き、日本中を沸かせたエースが、プロの世界に挑戦する。
その吉田は約1週間前の10月2日、福井国体で高校最後の公式戦に臨んでいた。
福井国体は台風24号の影響で日程が短縮され、準決勝以降が打ち切りとなった。金足農の試合は、勝っても負けても2回戦の常葉大菊川高戦1試合のみとなり、そこで勝てば1位が決まる。
吉田にとっては、宮崎で開催されたU18アジア選手権の台湾戦以来、約1カ月ぶりの公式戦のマウンド。この日は今大会最多の8257人の観客がつめかけ、金足農のベンチの上にはカメラやスマートフォンを構えたファンが幾重にも重なった。試合前のスタメン発表で「3番・ピッチャー、吉田君」とコールされると、ひときわ大きな拍手が起こった。
球威、自信、ふてぶてしさ。
しかし吉田がマウンドに上がり、セットポジションに入ると、甲子園のようなブラスバンドの応援がない福井県営野球場はシーンと静まり返り、観客はその投球を固唾をのんで見守った。
まさに、吉田の時間。
吉田はその時間を自在に操った。ポンポンとテンポよく投げ込んだかと思えば、じりじりするほど長い間を取る。矢のような牽制もあれば、気の抜けるような緩い牽制も見せる。
「マウンドは俺の縄張り」
これは甲子園の決勝前夜、吉田が帽子のつばに太字で書き込んだ言葉だが、この日の吉田はまさにその言葉を体現していた。
U18アジア選手権では、調子の上がらない立ち上がりを捉えられ、韓国戦、台湾戦で敗戦投手となった。しかしこの日は、「疲れがしっかり抜けたので、全然違う」と本来の球威を取り戻し、表情にも自信とふてぶてしさが戻っていた。