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大坂なおみの無垢さは最高の武器。
「セリーナと抱き合ったら子供に」
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2018/09/10 17:00
セリーナ・ウィリアムズの言動が世界中で物議を醸しているが、大坂なおみにとっての憧れであることは何ら変わりない。
セリーナにペコリと頭を下げて。
表彰式、インタビュアーにマイクを向けられた大坂の第一声は、「質問と違うことを言うけれど、皆さん彼女を応援していたと思います。こんな結果になってごめんなさい。試合を見てくれてありがとう。それだけ言わせてください」だった。
インタビューの最後はまた質問と関係なく、「セリーナとここの決勝で戦うことができてうれしかった」と言い、セリーナのほうに顔を向けてペコリと頭を下げながら「サンキュー」と言った。
なぜあなたが謝る必要があったのか……。記者会見での質問に、こみ上げる感情を抑えきれず、涙で声を詰まらせながら答えた。
「セリーナが24回目のグランドスラム・タイトルをどうしても欲しかったことを知ってるし、どこでもその話でもちきりだった。でもコートに入った瞬間、私はもうセリーナのファンじゃない。もう1人の誰かと戦うただのテニスプレーヤー。でもネットで彼女と抱き合った瞬間……小さい子供に戻っちゃった」
7秒の沈黙とスイッチの入れ替え。
セリーナ・ファンに戻った途端、セリーナから24回目のグランドスラムの夢を奪ったこと、かつての自分のようにセリーナの勝利を願ってここに来た多くのファンをがっかりさせたことが、申し訳なく思えてきたというのだろう。ちなみに、コメントの「……」は7秒間の沈黙だ。
そのスイッチの入れ替えは、彼女のパワーやスピードに匹敵する天性の才能か。試合中はただ戦う1人のプレーヤー……言われてみれば、と思う行動があった。
セリーナが主審に食ってかかっている間、大坂は自分がサーブをするために持っていたボールを2つ、ネット越しにポンと向こうへ投げ入れた。1ポイントもプレーせず1ゲームをもらったことに、妙な気遣いや戸惑いを微塵も見せずに。そしてそのまま背中を向けて、ベースラインのほうへ下がっていった。