スポーツ百珍BACK NUMBER
藤井聡太や羽生善治は時を操る。
持ち時間が違えば思考法も変わる。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph bySatoshi Shigeno
posted2018/09/09 09:00
TVトーナメントの決勝で対局する藤井聡太七段(右)と佐々木勇気六段。若手棋士らしい高速展開に注目だ。
局面だけでなく時間にも緩急を。
自分の中での時間配分とともに、将棋は対局相手のいる競技である。相手の読み手を外したり、時間を駆け引きすることでペースを呼び込む時もあるという。
「棋士は誰でも局面の展開だけでなく、時間の使い方にも緩急をつけます。持ち時間が短い対局でも、あえて1分ぐらい考えたり。感覚としては1分でもかなり貴重なんですが、思考を一旦落ち着けて、1回ペースを止めてじっくり考えるんです。
他にはずっと早いペースで攻め続けるのも難しいので力を溜めたり、攻めている局面でも息切れしそうな時にペースを落としたりします。なかには、形勢が良くなった時にあえてペースを落とす人もいるんですよ」
藤井七段の時間の使い方は……。
話を聞いてみて、やはり気になるのは藤井七段の時間の使い方だ。「藤井七段って、デビューしてからの1年半で何か成長や変化などは感じますか?」と野月八段に質問すると少し考えてから、こう分析してくれた。
「藤井くんも指す将棋が増えていって、局面の判断力がどんどん上がっています。現状を見極めて今後どう指していけば自分の勝ちが近づくか、時間を上手く使うようになっていますよね。藤井くんが自分のペースで指しているときは一手一手が速い。
そういう意味で藤井くんが持ち時間をあまり使わずテンポよく指している時は、思っている通りに対局を進めている印象があります。一方で長く考えている時は、自らの方に何とか引き寄せようとしているな、という印象です」
確かに藤井七段が時間をかけず指していると、気づけば勝勢になっているという対局は多い。その一方で、劣勢ないし互角の場面では、苦しい表情を浮かべつつも相手を出し抜くような妙手を考えているのだろう。