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藤井聡太や羽生善治は時を操る。
持ち時間が違えば思考法も変わる。
posted2018/09/09 09:00
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph by
Satoshi Shigeno
藤井聡太「七段」の戦いぶりは、今年に入っても世間に話題を提供している。「あれっ、七段?」と言う人も多いかもしれないが。
15歳6カ月で朝日杯オープンを優勝して六段になった3カ月後、今度は竜王戦ランキング戦を勝ちあがって七段昇格。“ひふみん”こと加藤一二三さんの17歳3カ月を上回る15歳9カ月で達成した。
慣れてきてしまったのが怖いが、あらためて考えても現実の出来事とは思えない。
将棋界全体を見ても、いわゆる「八大タイトル」を羽生善治竜王、佐藤天彦名人、高見泰地叡王、菅井竜也王位、中村太地王座、渡辺明棋王、久保利明王将、豊島将之棋聖と8人で分け合っている。複数タイトル保持者がいないのは31年ぶりという群雄割拠だ。
そんな白熱する将棋を見るうえで案外ひっかかるのが、対局時間の違いではないだろうか。
「10秒~20秒~」と持ち時間。
将棋は竜王戦や名人戦のように2日制で実施したり、NHK杯のように1時間強で終わるものもある。それは「持ち時間」という対局時間がそれぞれ設定されているから。例えば名人戦だと9時間、早指し戦と言われるNHK杯は10分(考慮時間10回)で、使い果たすと1手30秒未満で指さないといけない。
将棋のテレビ中継を見たことがある人なら、記録係の人が独特のイントネーションで「10秒~20秒~1、2、3、4……」とささやくのを聞きながら、厳しい表情を浮かべる棋士が思い浮かぶのではないか。
公式戦以外に目を移すと『AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治』では「フィッシャールール」という方式が採用されている。フィッシャールールとは、チェスでよく使われるもので、持ち時間は5分だが、1手指すごとに5秒増えるというルールだ。
3番勝負とはいえ1つの対局は20分ほどで決着し、一気に勝負が決まるスピード感は、今まで見慣れない光景である。羽生竜王がチェスでも日本有数の実力者なのは有名だが、今回の棋戦はそこから着想を得たものだという。