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浅野拓磨が忘れない2つの約束。
本田の魂、ランゲラックとの再会。
text by
占部哲也(東京中日スポーツ)Tetsuya Urabe
photograph byGetty Images
posted2018/09/05 08:00
シュツットガルト時代にランゲラック(左)と同僚だった浅野拓磨。日本の新エースとして一本立ちできるか。
乾、岡崎、本田、長友を見て。
けがを抱える乾貴士、岡崎慎司が、訪れるか訪れないかも分からないチャンスに備えて居残って、痛みの残る足を振った。
先発を外されジョーカー役を担った本田圭佑は、大粒の汗を額に浮かべながら練習後に自身を追い込むようにダッシュを繰り返した。宿舎のトレーニングジムでは、長友佑都が独自のトレーニングで肉体の強化を図り、コンディションを整えていた。
地味に地道にコツコツと自分を積み上げて、一枚一枚厚くなる。欅の木。ゆっくりとしか大きくなれない変わりに、雨風に耐え固くてでかい木に育つ。世界に飛び出し、日本を支えてきた先達の秘伝をまぶたの裏に焼き付けた。
浅野の熱は先輩たちにも伝わっていた。ラウンド16でベルギーに敗れた後、本田は「優勝を目指してそれが果たせなかった。この意志を次の若手に引き継いでもらいたい。それにふさわしいヤツは今回のW杯で何人か見つけているんで」と“遺言”を残した。まるで、甲子園で壁を越えられなかった先輩が後輩に「後は任せた」と言っているような関係に見えた。
合宿中に迎えた自身32回目の“誕生日会”では、浅野の一発芸を指名。リオ五輪代表以来恒例となった、手倉森誠コーチの物まねで盛り上げている。
浅野も彼らの意志を継ぐ1人だろう。先輩からの無茶ぶりに応える昭和の上下関係が薄れつつある時代で、異彩を放つ。いじられキャラの岡崎も「あの度胸はすごいな」と認める。平成生まれのジャガーだが、昭和の心意気、粋を継承できるストライカーだ。
ドイツで同僚だったランゲラック。
そして、もう1つ。果たせなかった約束がある。名古屋グランパスのGKランゲラックとの邂逅だ。
2人は2016-17シーズンにドイツのシュツットガルトでチームメイトだった。ロッカールームも隣であり、気さくなオーストラリア人は「拓磨は最初の移籍でドイツ語も分からないようだったから(英語で)通訳してあげたよ」と懐かしむ。
昨季、浅野が試合に出られずベンチ外が続いた時も、得意のジョークで励ましたという。名古屋で「浅野」という表札を掲げた一軒家を発見したランゲラックは、自身を入れた写真を撮って「『これが拓磨の家か?』ってメールを送ったよ(笑)」。