炎の一筆入魂BACK NUMBER
なぜ広島は野手と投手に溝がないか。
「黒田さんの教えがあるんだと」
posted2018/06/23 09:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
ロシアでは世界一を決める、4年に1度のサッカーW杯が行われている。国と国との威信をかけた戦いは、チャンピオンズ・リーグやコパ・アメリカとはまた違う熱気を感じる。当たり前のことかもしれないが、個の力だけでなく、組織力がなければ勝ち上がることはできない。
それは広島が狙うセ界一への戦いと同じかもしれない。連覇中の広島は特出した個の力に頼ったチームではなく、組織化されたチームと言えよう。一昨年も、昨年も頂点に立ったときには「団結力」という言葉が聞かれ、3連覇を目指す今季開幕前も「一致団結して」と誓っていた。
だからこそ、いくらぐらついたとしても、簡単には崩れない。開幕から続く「投低打高」は今も変わらない。昨年12勝6敗で連覇への勢いを加速させた交流戦を、今季は7勝11敗で12球団中10位。交流戦18試合制となった'15年以降、球団初の3桁失点となる104失点を喫した。
投手陣の苦戦が失速の最大の要因であり、投手陣と野手陣に溝が生じても不思議ではない状況だが、チーム最年長の新井貴浩はそんな声に耳を貸さない。
「黒田さんの教えがあるんだ」
リーグ戦再開を翌日に控えた6月21日。報道陣から投手陣の乱調をどうカバーするか問われると、表情を変え、語気を強めて一気に言葉を吐いた。
「ピッチャーもバッターもない。チームメートなんだから。ピッチャーが、バッターが、という考え方が違う。チームメート、仲間なんだから。うまくいかないときもあるけど、助け合いだから。ピッチャーも抑えたいと思ってマウンドに上がっている。そんなことを言っていたらすぐに(チームが)バラバラになってしまう」
わずかな綻びが大きなひずみとなり、気づけば修復できない崩壊を迎える。これまで積み重ねた時間が嘘のように、あっさりと崩れてしまいかねない。低迷期を知るベテランの言葉は、重い。
思えば、四球禍にはまった5月。どれだけ四球を出しても、どれだけ失点を重ねても、我慢強く守り、走者を進める打撃や粘り強い打撃を徹底してきた野手陣の姿に、迎祐一郎打撃コーチが感心しながら、こう言っていた。
「あいつらだって文句は言いたいかもしれない。でも文句も言わず、態度にも出さないのは黒田(博樹)さんの教えがあるんだと思います。昔は投手が変な投球をすると、内野陣からきつい言葉が飛び、萎縮する投手もいたそうです。チームはそうやって悪い方向に行っていたという話を、今のキク(菊池涼介)や(田中)広輔は聞いていますから」