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エッフェル塔の下にクレーコートが出現。
「未来のエース」が繰り広げた熱い戦い。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byALEXIS REAU/ SIPA/ LONGINES
posted2018/06/15 11:00
2人の日本人がクレーコートで奮闘。
日本からの出場者は、ともに昨年の全国小学生大会を制した前田優(ラフ/大分)と虫賀心央(TENNISPRO.co.jp/愛知)。虫賀は1位、前田は2位でラウンドロビンを突破し、両者揃って決勝トーナメントに進出した。しかし前田は準々決勝でロシアのヤロスラフ・デミンに敗れ、虫賀も準決勝でアメリカのクラービー・ヌグンウエに敗れた。
決勝に進出すれば、アガシやグラフ、コレチャやフレンチ・オープンで3度の優勝を誇るアランチャ・サンチェスとのダブルスのエキシビションマッチを戦えた上、優勝者にはロンジンの高級時計、トロフィー、ラケットケースのほか、16歳を迎える年まで毎年一定額の奨学金が与えられただけに、決勝に届かなかったのは残念だった。
しかし、虫賀と前田は2人ともクレーコートが好きだと言っていたのが印象的だ。赤土のコートは南ヨーロッパや南米に数多くあるが、ハードコートやオムニコートが中心の日本ではあまり慣れ親しまれていない。ラリーが長く続く試合は心身の忍耐力を要し、足を滑らせながら打つスライディングなどの技術も求められる。
虫賀はこれが4度目のパリで、かの有名なムラトグルー・テニスアカデミーでも1週間のトレーニング・キャンプに参加した経験があるという。赤土には多少馴染みがあり、「左利きなので、ボールが弾むクレーではサーブの回転を一番生かせる。相手をコートの外に追い出せるようにゲームを作っていくのも楽しい」と得意の理由を説明した。
一方、「自分のテニスに向いている気がする。僕は体が小さいので、ハードコートだったら相手が強く打ってきたボールに追いつけないこともあるけど、クレーだったら球足が遅くなるから追いつける。長いラリーは苦手じゃない」と前田。
オフコートでは少々シャイだった前田も、コートに立てば他国のコーチが目を留めるほどのテニスを展開した。虫賀のほうは、これまでマスコミで取り上げられた経験も豊富なせいか、その社交性は海外選手に引けをとらない。世界の中で十分に存在感を見せた〈日本代表〉だった。