ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
PGA参戦は「“ど”ハプニングです」。
小平智の溢れる野心と下から目線。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2018/05/31 17:00
物怖じせずに人の懐に飛び込む男は、PGAにも勢いよく飛び込んで行った。これから大きな物を吸収し続ける日々が始まるのだろう。
いい選手から吸収するものと、見切るもの。
ただ彼の組み合わせに関しては、以前から不思議なところがあった。4月の快挙より前、スポット参戦時から有名選手とプレーできる機会が多かった。
昨年8月のWGCブリヂストン招待ではシャール・シュワルツェル、ビル・ハースと予選同組になり、成績順で組み合わせが決まる決勝ラウンドではジョン・ラーム、フィル・ミケルソンと一緒に。
翌週の全米プロでも週末にアダム・スコット、ヘンリック・ステンソンとプレーをともにした。今年3月のWGCデル・マッチプレーではミケルソンと今度は直接対決し、スイングのヒントを得て、その後の飛躍的な成功につなげた。
そんな巡りあわせを小平は「何か、意味があるんだと思うんです」と、一時の幸運として処理せず、前向きに受け止めてきた。
「いい選手から吸収できるものはしたい」と規格外のプレーを目の当たりにして、自分に役立てたいと思うのは当然のこと。
「それに、逆に自分にできないことを受け入れるのも大事なんです。『おれ、こういうのはできない。勝負できるところはここじゃない』って思うこと。そうでないと割り切れない。やっぱり目の前で体感すると違います」
習得すべきものと、自分のスタイルを壊しかねないものを整理整頓。限られたチャンスの中でそれを繰り返してきた。
PGA勝利は「“ど”ハプニングです」。
PGAツアーにおいて、キャリア15試合目での優勝は日本人選手として最速。瞬く間にシンデレラボーイになったが、小平は自分のことを「結構“こつこつタイプ”」と表現する。
父・健一さんが日本プロゴルフ協会のプロ資格を持っていたとはいえ、本人が本格的にゴルフに打ち込むようになったのは中学生の時。
「ツアーにいる人たちは皆、学生時代にすごい成績を残してきた。自分は(彼らの)ライバルでもなかった。足元にも及ばない。だから『小平がPGAで優勝しちゃうの?』って思っている人たちばかりのはず」
日本の下部ツアーから段階を踏み、PGAツアーへの定着もそうするつもりだった。
だからこの春の出来事は「“ど”ハプニングです、人生初のハプニング」と笑う。「僕はいつも新しい記録を残す、というよりは、他の人がやったことに付いていくことが多かった。いつも誰かが、良いお手本が前にいる。それに向かって目標を見失わずにやってきた」