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浅野拓磨「俺が一番知ってますもん」
サッカー選手の価値は一瞬で変わる。
posted2018/05/27 17:00
text by
小野晋太郎Shintaro Ono
photograph by
Getty Images
目の前には王者バイエルン・ミュンヘンがいた。
シュツットガルトのエースであるマリオ・ゴメスが子供の出産立ち合いでこの試合に帯同できず、浅野は急遽遠征に呼び出された。
ブンデスリーガ最終戦で7試合ぶりのベンチ入り。しかも相手はバイエルン。
すでに優勝を決めていた王者に対し、シュツットガルトはEL出場の可能性を残していた。後半10分の時点でスコアは4-1。驚くような点差でリードを奪っていたのは、シュツットガルトだった。
「こんなに点差があったら、もう攻撃の選手は出番がないかもな」
そのとき、監督が誰かを呼んでいた。攻撃の選手を入れるつもりなのがわかった。
FW登録はベンチに自分しかいない。自然と気持ちは高揚したが、呼ばれたのはMF登録の選手だった。
勝っている時間に攻撃の選手を入れる。それでも自分は呼ばれない。
19歳のデンマーク人選手がピッチに駆けていった瞬間、浅野のドイツ2年目のシーズンは終わりを告げた。
必要とされていないという初めての感覚。
人並みはずれたスピードを誇る浅野は、日本では交代カードとして絶対的な存在だった。
2015年に広島で挙げた8得点は、全てスーパーサブとしての得点だった。
翌年のリオ五輪最終予選の決勝、韓国戦。逆転の2ゴールを挙げて日本をアジア制覇に導いた時も途中出場だった。相手の疲れが見えた時間帯に、誰よりもピッチを速く駆け抜けた。
スタメンではなくスーパーサブとして使われることに悩んだ時期もあるほど、途中出場での浅野の存在感は群を抜いていた。だからどんなチームでも、攻撃に変化を加えるスイッチとして重宝され、必ず結果を残してチャンスをつかんできた。
浅野にとって、こんなにチームに必要とされていないと感じたのは初めてだった。