オリンピックへの道BACK NUMBER
羽生結弦のあまりに深いスケート愛。
アイスショーで語った仲間と幸福。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKyodo News
posted2018/04/19 08:00
羽生結弦のトークは、もしかすると演技以上にレアかもしれない。会場にいあわせた人々は幸せ者だ。
羽生のサプライズ登場に会場が熱狂。
佐野のときはこう語った。
「佐野先生が来てスケート教室をやるという話があって、それをきっかけに姉がスケートに行ってスケートを始めて、姉がやったから僕も始めるという感じでスケートを始めた。スケートを始める根本的なきっかけになった人です」
憧れ続けたプルシェンコ、振り付けを依頼してきたバトルやボーン、そして「ロシアに行く姿に勇気をもらった」と言う川口らが次々と登場。佐野と川口は、都築章一郎コーチの教え子でもある。
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ゆかりあるスケーターたちの演技、トークショーを交えて公演は進んだ。
何度も大きな歓声と拍手が起こったショーだが、熱量が一気に高まったのは第2部、プルシェンコが滑り終えたあとのこと。暗がりの中リンクへと進んだのは、事前の告知では滑らない予定だった羽生だった。
披露したのは8歳から11歳のときの『ロシアより愛をこめて』、シニア1シーズン目の『ツィゴイネルワイゼン』、そして『バラード第1番』。ジャンプなしではあったが、曲に合わせた動作、振り付けはそれを感じさせない圧倒的な迫力に満ちていた。
「スケーターになれて、ほんとうによかった」
ショーの合い間のトークの中、羽生はこう語った。
「この世界に生まれてきて幸せだなと思いました」
「スケーターになれて、ほんとうによかった」
そのとき思い出されたのは、平昌五輪の記者会見での言葉だった。
「ほんとうの気持ちは嫌われたくないってすごく思うし、いろんな方に見られれば見られるほど、いろんなことをしゃべればしゃべるほど嫌われるし、いろんなことを書かれるし、嘘みたいな記事が、これからもっともっと出てくるんだろうなって思います」
そのとき見せた一瞬の寂しそうな表情が甦ってきた。これまで何度も同様の表情を見せてきたことも。
世界のトップスケーターへと上りつめていく時間の中で、羽生にもときに孤独な瞬間があったのかもしれない。