イチ流に触れてBACK NUMBER
極寒の地で驚異の「3.88秒」計測。
イチローの走力は今もメジャー屈指。
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byGetty Images
posted2018/04/10 08:00
年齢を感じさせないイチローのフットワーク。今もなおメジャーで存在感を放つ。
間一髪アウトにふくらはぎを心配したが。
3打数1安打で迎えた第4打席。マリナーズが1点を追う場面だった。
イチローは2ストライクから救援右腕リードの83マイル(約134キロ)のスライダーを芯で捉えたが、不運にもマウンドの傾斜部分と投手のグラブをかすめ打球が二塁手の守備範囲へと角度を変えた。それでも内野安打はある。背番号51が全力疾走に入ると同時に記者席には緊張が走った。
「右ふくらはぎは大丈夫か!?」
判定は間一髪ながらアウト。一塁を駆け抜けたイチローはいつものように表情を変えずにダグアウトへと戻る。見た限りふくらはぎに異変は感じられない。ホッと胸をなでおろした。
そしてその直後、筆者の心に、驚きにも似た感情が沸き起こることになる。
44歳で叩き出した「3.88」の驚愕タイム。
リプレイをPCの映像で改めて検証してみると、信じられない数字がストップウオッチの画面に浮かびあがったのだ。
「3.88」
4秒を切ればメジャーでは俊足と評価されるなか、イチローは'15年シーズンに平均3.98秒を記録し、メジャー5位に入った。上位4選手は全て20代の若い選手の中、当時41歳がはじき出した数値はまさに異次元、驚愕の一言だった。
さらに42歳シーズンの夏場には3.7秒台を連発。イチロー自身も当時、「3.7秒だったら、速いよね。去年より速いことは感覚的にわかっているんですけど、そんなに違うとはね」と、手応えを口にしている。
だが、この'18年4月5日、イチローが置かれていた状況は、過去のものとはまったく違う。3月の春キャンプで右ふくらはぎを痛め、オープン戦は12打席しか立てなかった。その上に襲った小雪舞うマイナス1度の極寒の環境。しかも彼は今、44歳なのだ。