イチ流に触れてBACK NUMBER
極寒の地で驚異の「3.88秒」計測。
イチローの走力は今もメジャー屈指。
posted2018/04/10 08:00
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
Getty Images
4月5日、ミネアポリス。ツインズの本拠地開幕戦となった試合は午後3時開始にも関わらず気温はわずかに3度。キャンプで右ふくらはぎを痛めたイチローには、あまりにも酷な環境下での試合となった。
故障再発は命取り。イチローに、寒さ対策について訊ねたら、ちょっと照れながら、こんな告白をしてくれた。
「今回は下に履いていますけど(笑)。その程度ですけどね」
下に履いていたもの、とは黒いスポーツ用のタイツ。普通の選手ならば当たり前の防寒着だが、ユニフォームの下に“パッチ”を履くことは、イチローの美学からすれば避けたいところだろう。
だが、彼は照れながらも“パッチ”の存在を明かした。日々、彼の言葉には心を打たれることばかりだが、この日ばかりは、やたらと親近感が高まってしまった。
「太陽が隠れて風が出たらダメです」
4日のデトロイトでの試合が寒波のため中止になるなど、4月初旬の米国中西部は異常寒波に見舞われていた。だからこの試合も、正直なところ開催が危ぶまれていた。
「(ケガを)していても、していなくても、今日は(タイツを)履いていますよ」
尋常でない寒さでの試合であったことが、イチローの言葉に表れていた。
選手たちが心の拠り所としていたのは「太陽光」と「微風」。この環境が揃えば、なんとか普通にプレーができる。だがこの日も、試合が進むに連れて太陽が厚い雲に覆われていき、5回には陽射しが全て奪われてしまう。
「太陽が隠れて、風が出たら、これはダメです」
とイチローが説明するほどの悪条件だった。そして、迎えた8回にはついに小雪が舞い出し、体感気温は氷点下1度。そんな状況の中で、イチローはまたしても信じられないことをした。