松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
松山英樹の「最悪」と「戦える」。
初めて帯同する妻子もプラスに影響?
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph bySonoko Funakoshi
posted2018/04/04 14:30
宮里優作と並んで、マスターズ恒例の「水切りショット」に挑戦する松山英樹。
妻の希望で、オーガスタへ帯同。
調子が悪いと言いながら「そのわりには、いい感じの雰囲気ですね」とストレートに問いかけてみると「それは優作さんが一緒だからじゃないですかね」。
気心の知れた東北福祉大学ゴルフ部の先輩とともに練習し、ともに笑い合えること。それも、もちろんあるだろう。だが、それだけではないはずだ。
松山は昨年1月に結婚し、7月に第1子が生まれた。これまで彼が米ツアーの会場に妻子を連れてきたことは一度もなかったが、今週はオーガスタに妻と子の姿がある。
愛妻・芽緯さんは東北福祉大学の2年後輩。芽緯さんが胸に抱いている女の子の名は「叶夏(かんな)」ちゃん。芽緯さんは日頃、米ツアーで夫がプレーしている姿は「テレビをずっと流して観ている」そうだが、芽緯さんもゴルファーゆえに、美しいオーガスタに「一度、行きたいなあ」と言ったら、夫・松山が妻の希望を聞き入れてくれたと言う。
それでも試合に集中できるよう、宿舎は夫は夫、妻子は妻子で別々に取っている。だが、試合の舞台に愛する妻子がいることは、きっと松山の心の癒しになっているはず。
「それは関係ないです」
松山自身は否定していた。公私混同したくない性分でもあるし、照れもあるのだろう。ひょっとしたら松山自身、その影響と変化に自分では気付かないかもしれない。だが、不調の中で大事なメジャーを迎えているという局面で、あんなにも穏やかでいられたことには、それなりの大きな理由があるはずで、その理由は妻と子の存在なのではないか。
誰かのために勝つ。誰かのために頑張ろうと思う。そういう臨み方、そういう戦い方もあると私は思う。
タイガーの復活と、松山の可能性。
折りしも今年はタイガー・ウッズが3年ぶりにマスターズに復帰。13年ぶりの復活優勝に注目が集まっている。膝を痛め、腰を痛め、何度も手術やリハビリを繰り返し、そして今、大復活しつつあるウッズは「故障による痛みとの闘いはアスリートであることの一部だ」と言った。
かつてウッズも故障明けに試合に出て、万全な練習や調整ができずにメジャーにも出たことが何度かあった。「復帰を早まったと思ったこともあった」そうだが、「でも僕は、それでも勝った」。
4度目の腰の手術後のウッズは、スイングスピードが以前より増した今でも練習量は抑えている。過去には練習場で4~5時間打ち続けていたが、「今はせいぜい1時間で去る」。それでも復活しつつあり、それでも勝利が期待されている。
松山にも同じことが当てはまるのではないか。練習は量より質。そう思えばいい。そうできればいい。
マスターズ開幕前の現段階で松山は調子も準備も「最悪」と言っているが、それでも彼の中に希望はあり、渇望もあり、勝利の可能性はもちろんある。
「それでも勝った」――サンデーアフタヌーンが暮れるころ、このセリフを松山の口から是非とも聞いてみたい。