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“いつのまにか賞金王”の藤田寛之。
本物を追い続けてきた43歳の矜持。 

text by

雨宮圭吾

雨宮圭吾Keigo Amemiya

PROFILE

photograph byToshihiro Kitagawa/AFLO

posted2012/12/04 10:40

“いつのまにか賞金王”の藤田寛之。本物を追い続けてきた43歳の矜持。<Number Web> photograph by Toshihiro Kitagawa/AFLO

JTカップ初の3連覇とともに賞金王に輝いた藤田寛之は、試合後の会見で「自分が賞金王になるようなツアーではダメだ」と苦言を呈した。

 ゴルフは「ミスのスポーツ」とも言われるほど、ミスを犯さずにはいられないスポーツだ。だったら、ささいなことなど気にしないほうがいい。何事も前向きに取り組んでさえいれば、必ず道は切り開けるはず。キレイごとと紙一重の美辞麗句をうたうポップソングのようなプラス思考は、最近のゴルフ界にもあふれている。

 ただし、今季男子ツアーの賞金王となった藤田寛之はそんな考え方とは真逆をいく。

「スイングが全く分からなくなった」「体力よりも自分の技術がいつも不安」「上手くいかないときはもう引退だと思ってしまう」「力不足」「これでは歯が立たない」と平気で口に出す。

「調子が悪いって言ってたけど、実際どうなんですか?」と周囲の人に聞いてみても、「藤田さんが悩んでない時なんてないでしょう」と笑われるのがオチ。確かに「絶好調!」なんて言葉は、賞金王になった今季でさえ聞くことはなかったように思う。

「厳しく自分を評価して、そこから這い上がる」

 自分に妥協しないから小さなミスも気になる。それを克服しようと悶々と悩みながら、藤田は毎日練習場で球を打ち続ける。

「ゴルフって上手くなったと自分で実感するのは難しい。これができるようになったとか、そもそも絶対にできるものなんてゴルフにはないんですから」

 それでは永遠に満足にたどり着かない失望と落胆の無限ループではないのか。つまりネガティブシンキングと呼ばれるもののような。

「“藤田寛之像”が語られる時によく出てくるものに、たとえばマイナス思考というのがありますよね。ただ、自分では決してマイナス思考ではないと思っているんですよ。古き良き時代の日本の、厳しく自分を評価して、そこから這い上がるっていう考え方をしているだけで。最近の『プラス思考』っていう軟弱な考え方とは違う。確実な本物を見つける作業をしているんです。それは違うと言われるのであれば、『プラス思考』と言っている方々のほうが違うと声を大にして言いたい」

 安直なポジティブシンキングは課題を覆い隠し、成長を妨げる。うずたかく積まれた失望と落胆を乗り越えて初の賞金王に上りつめた43歳の哲学である。

【次ページ】 学生時代は丸山、桑原の“東西横綱”には歯が立たず。

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