イチ流に触れてBACK NUMBER
イチロー帰還。メジャー取材24年で
初遭遇した感動的で「粋」な光景。
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byGetty Images
posted2018/03/16 08:00
6年ぶりのピオリアで、苦境から一転、メジャー18年目を迎えるイチローの表情はとても明るい。
「5年半、また『耐性』が強くなった」
彼がフリーエージェントとなったのは昨年の11月3日のことだった。「3年前以上の覚悟を持って待つ」と、メジャーリーグ契約だけのオファーを待った。3年前とはマーリンズとの契約が決まった'15年1月27日のことだが、時は無情に過ぎていった。
2月に入っても、スプリングトレーニングが始まっても、3月の声を聞いても、オファーは届かなかった。だが、突然に春の風は吹いた。
正左翼手のベン・ギャメルが打撃練習で右脇腹を痛めたのは2日のこと。その翌日に早速に舞い込んだマリナーズからのオファーは日本時間4日だった。緊急渡米は5日。シアトルに入りそのまま契約に必要な身体検査を受け6日早朝にはアリゾナへ飛んだ。契約書へサインをしたのは7日。わずか4日での電撃復帰となった。
2012年7月23日以来、2053日ぶりにマリナーズのイチローとなった背番号51は入団会見で2つの印象的な言葉を使った。
「いろんなことを経験しました、この5年半。また『耐性』が強くなった、『耐性』とはいろんなことに耐える能力、これが明らかに強くなったと言うことです」
「『泰然』とした状態であった」
控え外野手の立場がそうさせたのだと言う。また、124日間にも及んだ“無職の日々”にはこの言葉を使った。
「いろんなことを考えました。周りも心配してくれることはたくさん聞いたんですけど、僕自身としては『泰然』とした状態であったと思います。『泰然』と言う状態はプレーヤーとしても、人間としても、常にそうでありたいと思う目指すべき状態であったので、そう言う自分に出会えたことはとても嬉しかったです」
身につけた「耐性」が「泰然」を生む。世界最多の4358安打を放つ孤高の天才は“経験が人を育てる”と言っているのだと感じた。
ジェリー・ディポトGMは公式サイトのインタビューに開幕スタメンと週4日から6日のレギュラー構想を早くも明かした。スコット・サービス監督も「9番・イチロー」、「1番・ゴードン」の「イチ・ゴー」コンビ結成プランを地元ラジオ局に発表した。
開幕は3月29日。開幕スタメンとなれば、ヤンキースに在籍した'13年4月1日のレッドソックス戦以来、1823日ぶりとなる。3月14日のオープン戦では、右足ふくらはぎの張りを訴え途中退場、大事に至らないことを今は祈るしかないが、楽しみな一年に向け、イチローは『泰然』と仕上げていく。