マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
竹バットでフェンス直撃の高校生。
唐津商・土井克也は「谷繁元信」だ。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySports Graphic Number
posted2018/03/08 07:30
身長以上に大きく見える土井克也。捕手としての能力も確かだが、打撃優先で獲得を目論むチームもあるかもしれない。
打球が速すぎて竹バットで打撃練習。
バッティング練習は、いきなり走者を置いた逆方向狙いの「一本バッティング」だ。
4人目に、土井克也が打席に立つ。
ふところの広い構え。肩の高さにセットされた右ヒジをストンと落としただけで、バットヘッドがポーンと出てきそう。
こういうふうに構えられると、投手は嫌だ。どこに投げても捉えられそうに感じる。
いきなり、ライトポール横へ速いライナーが伸びる。「エイ、ヤー!」の強振じゃない。サッと振り抜いただけのように見えたのに、あっという間に打球がポール横のフェンスに届く。
左腕の速球に差し込まれながら、やはりぐんぐん伸びていったセンターオーバー。詰まったはずの打球が高い角度で外野に飛んでいって、そこからなかなか落ちてこないで、この打球もバックスクリーン前のフェンスまで伸びた。
「あの打球、金属じゃなかったんです、2本とも。練習では竹バットで打たせてるんです。土井が金属で本気で打つと、スピードがすごいんで危ないです」
土井の成長が嬉しくてしかたない監督。
昨秋は、肝心な場面で打てずに悩んだ時期もあったが、冬を越して、バッティングが変わってきたという。
「あの2本は僕もびっくりしました。確かにセンターからライト方向へ、当てにいかずに強く打てるように、とひと冬ずっと指導してきたんですけど、あそこまで成果を見せてくれるとは……。あのちょっと前にも、ああ、センターフライだなと思った打球がフェンス越したこともありましたから」
あきれたように話す吉冨監督だが、1年生の頃から実戦に起用して手塩にかけた選手の台頭がうれしくて仕方ない。
「ウチは、僕がいつも厳しくあたるので選手たちも大変だと思いますけど、ほんと、みんなよく頑張ってますね。その中でも、土井は早くから試合に出てた選手だけに、余計プレッシャーもあるはずなんです。野球のレベルが高いってだけじゃなくて、人の前に立てるキャプテンシーも旺盛ですし。あいつ、中学では生徒会長ですから……やっぱり、人を束ねる力は持ってると思いますね」