ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
松本亮が浴び続けたボディーと洗礼。
“与しやすい世界初挑戦”の誤算。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2018/03/01 11:30
執拗なボディ攻撃に松本亮の体が折れるシーンもあったが、それでも最後まで倒れなかった。決してこれで終わりではない。
一発当たれば、という淡い希望も……。
大橋陣営はライバルたちとの競争を勝ち抜き、ローマンを日本に呼び寄せることに成功した。正直なところお金もかかったが、赤字覚悟でも松本を世界に挑ませたい、というのが陣営の熱意だった。
長身でパンチのある松本は、緻密に戦術を組み立てるというタイプではなく、どちらかと言えば感性で勝負するタイプである。松本好二トレーナーは試合前、次のように話していた。
「亮はバントのサインを出したのに、ホームランを打って帰ってきちゃうような選手なんです」
一発当たれば十分チャンスはある、そしてその一発が当たる可能性はそれなりにあるのではないか。そんな甘い予想が、試合開始からわずかな時間で砕け散った。
距離をつぶされ、打撃戦も劣勢。
ローマンは初回からグイッと踏み込んで右ストレート、ボディブローを挑戦者に見舞っていった。離れすぎず、くっつきすぎず、距離のつぶし方が絶妙で、初回からがっちりとペースを握った。
「距離を取ろうと思ったけど近づかれてダメだった。パンチ力はそれほどじゃないけど、距離とヘッドバッティングにやられた」
それでもなお、打撃戦に持ち込めばチャンスがあるのではないか、という見立ても松本陣営にはあった。松本は打ち合いも好きなのだ。
しかし、ここでもローマンが一枚上なところを見せた。常にバランスを崩さず、相手の動きをよく見て、松本の主武器である右ストレート、左ボディブローの大半をていねいにブロック。すぐさまリターンを返す。
スピードはなくとも反応がとにかく速い。常に先手、先手で試合を組み立て、松本が一瞬でも優位に立ちかけると、間髪入れずにパンチを打ち込み、反撃の芽を摘み取った。